芽吹きを見つめる目—街の噂と期待
王都ソレイユの広場に、今日も依頼を終えた冒険者たちが戻ってきた。
巨大イノシシを仕留めた若者たちの姿は、すでに街の噂になっていた。
「ほら、あの子たちだよ。庵の村から来たって」
「ギルドの新しい仕組みで役割を分けたらしいな。……本当にうまくいくのか?」
市民の視線は、好奇と期待が入り混じったものだった。
従来の冒険者は力自慢か腕試しのように見られることが多かったが、今は「協力すれば成果が出る」と語る声も増えてきていた。
その様子を、少し離れたバルコニーから眺める影があった。
奏の会の一員であるセリーヌとダリオだ。
「……民の噂は侮れませんわね。たとえ小さな依頼でも、目に見える結果を積み重ねれば、人心は変わる」
「ふむ。だが、これを快く思わぬ者も出てくるだろう。貴族の中には、冒険者が民衆の信頼を得ることを嫌う連中もいる」
ダリオの言葉に、セリーヌは小さく肩を竦めた。
「そういう方々にとっては、力も名声も“支配する側”のものですものね。けれど……この芽を摘むことはできませんわ」
一方、ギルド本部では、ジークが報告をまとめていた。
机の上には分厚い台帳と、市民から届いた感謝の手紙。
「“娘が無事に帰ってきました、ありがとう”……こういう言葉が何より力になるな」
ミナが微笑みながらうなずく。
「制度はまだ始まったばかり。でも、確かに民は見てくれてる。だからこそ、もっと信頼に足る組織にしなきゃ」
そこにアマネとリュシアも合流し、励ますように言葉を添えた。
「大丈夫だよ。人の力を信じて、積み重ねればきっと届く」
「ええ、信仰と同じですわ。形あるものではなく、人の心に根づくものなのです」
その頃、王城の執務室。
アルトが報告書を閉じ、深く息をついた。
「……始まったばかりだが、確かに動き出している。だが、この芽が育つことを良しとしない者たちも、必ず現れる」
窓の外には、市民と冒険者が笑顔で言葉を交わす光景が広がっていた。
それは小さな一歩に過ぎない。
だが、やがて国の未来を左右する大きな流れになる――アルトにはそう見えた。
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