ギルドと国家の約束
王城の一室。長机の向こうに並ぶのは国王アルフォンス、王妃エリシア、そして王太子レオン。重苦しいほどの格式ばった場ではなく、あくまで内々の協議の場だった。だが、アルトの背筋は自然と伸びる。ここでの言葉は、ギルドの未来を決めることになるからだ。
「……ギルドが得た物資や新種の素材について、その所有権はまずギルドに属する。しかし、帳簿を整え、国家に報告を上げることを義務とする。そうすれば、国も民も安心できる」
アルトがそう言葉を選んで口にすると、アルフォンスは深く腕を組んで唸った。
「国家の許可無く得られた力が、いずれ災いになることを恐れる声もある。だが……確かにギルドが自立するには、ある程度の自由が必要だな」
エリシアが横で柔らかく微笑んだ。
「秩序を乱す者ではないことは、あの子たちを見れば分かります。むしろ彼らを信じなければ、新しい芽を摘むことになりますわ」
レオンは鋭い眼差しを弟に向ける。
「アルト、責任はお前に重くのしかかる。王族の名のもとに約したからには、軽んじれば一族の顔に泥を塗ることになるぞ」
「承知しています、兄上」
アルトは一礼し、その瞳には確固たる意志が宿っていた。
こうして、ギルドと国家との最初の“約束”が結ばれた。
***
ギルド本部。まだ狭い石造りの部屋の中央で、ジークとミナが待っていた。書類や依頼票が山積みになった机を前に、アルトが合流する。
「おかえり、アルト。どうだった?」
ジークの問いかけに、アルトは真っ直ぐ答えた。
「承認された。ギルドが得たものはギルドに属す。ただし、帳簿で管理し国家へ報告すること。――これが国王陛下との約束だ」
ジークは大きく息を吐き、額に手をやった。
「……重いな。でも、これで正式に胸を張れる」
横でミナが素早く羊皮紙に走り書きをしている。報告形式の試案をまとめているのだろう。
「帳簿は、私が整備します。依頼ごとの素材や魔物の部位も、細かく記録して……その上で提出すれば、国も安心するはずです」
「助かるよ、ミナ。君がいてくれるから、この仕組みは回り出す」
アルトの言葉に、少女は小さく頷いた。
***
その夜。ギルドの灯りが落ち、窓辺で一人残ったミナは、水晶玉を手にしていた。
昼間、庵で東国の術師カエデから預かったもの。淡い光を放つ水晶は、不思議な静けさを宿している。
耳の奥に、カエデの低い声が甦った。
――「これは貸してやろう。だが道具に頼り切るな。最後に判断するのは人の心だ」
ミナは両手で水晶を抱え、深く息を吐いた。
「……そうだよね。どれほど便利でも、道具は道具。使う人が誤れば、ただの脅威になる」
机の上に広げられた設計図に視線を落とす。自らが描いた適性判定装置の構想。ここから先、いくらでも発展させられるだろう。けれど、その根本に据えるべきは――人を見抜く眼差しであり、信じる心だ。
窓の外で夜風がそよぎ、灯りが揺れる。
ミナは静かに水晶を布に包み、そっと胸に抱いた。
「私は……間違えない。皆が安心して歩ける未来を、必ず作る」
少女の小さな誓いは、闇に溶けながら確かな熱を宿していった。
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