庵の東国の人を訪ねる
庵の森を抜け、獣道を辿ると、小さな茅葺きの家が見えてきた。
アマネ、リュシア、ミナ、そしてジークの四人は足を止め、互いに頷き合った。
「ここだよ。昔、母さん――アサヒから聞いたことがあるの」
アマネが小声で言うと、ミナが目を丸くした。
「アサヒさんの知り合い……? なんだか、いきなり緊張するね」
戸を叩くと、やがて中から現れたのは、黒髪を後ろで結んだ壮年の男だった。
顔立ちは穏やかだが、その瞳は鋭く、まるで相手の奥底を見透かすようだった。
「ほう……アサヒ殿の娘が、ここを訪ねるとは」
男の言葉に、アマネは思わず背筋を正した。
「ご存じなんですか、母を」
男は小さく笑みを浮かべた。
「東国で共に学んだ仲だ。だが――今は昔の話。語るべきことは少ない」
それ以上は追及しない方がいい、と直感したアマネは話題を切り替える。
「実はお願いがあって……人の“適性”を見抜く力があると聞きました」
男は一瞬目を細め、奥の棚から掌大の水晶玉を取り出した。
「これは目安にすぎん。だが、言葉と気配を見れば、おおよその道筋は見える」
ジークが身を乗り出す。
「たとえば、俺たちの力を見抜けるんですか?」
男は頷き、まずジークに視線を注いだ。
「力強さより、責任を背負う器。仲間を率いることに長ける」
次にミナへ。
「君は知恵と工夫で道を切り開く者。器用だが、一人で抱え込む癖があるな」
ミナは思わず頬を染めた。
「すご……どうしてわかるの?」
男は答えず、水晶玉を指先で転がした。
リュシアに視線を移すと、彼女は静かに頷いて受け止めた。
「君は導く者。人の心に寄り添い、秩序を与える光だ」
最後にアマネ。
男はしばし彼女を見つめ、ふっと息を吐いた。
「……君は“選ばれる”者。己を削りながらも、他者のために立ち続ける。だが忘れるな、支える者の手を取ることを」
その言葉に、アマネの胸が強く打たれる。
(……母さんの友人だから? それとも本当に、見えてるの?)
沈黙を破ったのはミナだった。
「これ、応用できるかも! 仕組みにすれば、ギルドで適性を判断できるはず!」
ジークは深く頷いた。
「信頼に足る“基準”があれば、ギルドの在り方も変わるな」
男は淡く笑い、水晶玉を差し出した。
「これは貸してやろう。だが道具に頼り切るな。最後に判断するのは人の心だ」
そう言って、再び多くを語ることなく家の奥に引き返していった。
四人は顔を見合わせ、胸に熱を抱いたまま庵の帰路につく。
新たな一歩が、確かに芽生えていた。
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