制度の芽吹き
ギルド本部の小さな執務室。机の上には未処理の依頼書や、報告書の束が山のように積まれている。
ジークは深く息をつきながら、それらを一枚ずつ仕分けていた。
「……人手は増えてきた。けど、その分だけ課題も増えるな」
依頼の達成率は上がっている。しかし、依頼者からの評価はまちまちだ。
「丁寧にやっても遅い」と不満を漏らす者もいれば、「早さより確実さを」と褒める者もいる。
つまり、依頼の種類と依頼者の期待に合わせた“適材適所”が必要なのだ。
そのとき、アマネとリュシア、ミナが顔を出した。
「お疲れ、ジーク」
「ねぇ、祝賀会で話してたこと、進んでる?」
ジークは手を止め、彼女たちに視線を向けた。
「ご褒美とか、ランク分けとか……? 考えはある。でもな、ただ“やる”って決めても、根拠がなければ形骸化するだけだ。俺が一番恐れてるのは、ギルドが“王都の遊び場”になっちまうことなんだ」
その真剣な声音に、アマネは頷いた。
「頑張った人が報われるって、すごく大事だと思う。けど、ジークの言う通り、ただのご褒美合戦になったら意味がないね」
リュシアも静かに続ける。
「能力や特性に合わせて役割を任せられるように……たとえば“前衛向き”“交渉向き”“回復向き”みたいな大まかな分類があるといいと思うの」
ジークは顎に手を当て、考え込む。
「つまり、“誰がどんな力を持っているのか”を、明確に見える化する必要があるってことか」
その言葉に、ミナが目を輝かせた。
「うん! 仕組みさえ作れれば、道具でサポートできるかもしれないよ!」
アマネはふと何かを思い出したように口を開いた。
「……そういえば、庵の近くに“東国の人”が住んでるの。ちょっと不思議な力を持っていて、人の適性を見抜けるって噂を聞いたことがあるんだ」
「適性を……見抜く?」とジークが眉を上げる。
アマネは真剣な表情で頷いた。
「占いじゃなくて、その人は“言葉や気配”から、その人がどんなことに向いてるかを言い当てられるんだって。もし本当なら、ギルドの基盤に使えるかも」
ミナは机を叩いて立ち上がる。
「それ、絶対会いに行こう! もし原理が分かれば、仕組みにできる!」
リュシアも柔らかく笑う。
「偶然じゃなく、必然として導かれた出会いかもしれないわね」
ジークはゆっくりと頷き、机の上の依頼書をまとめた。
「よし。なら次の一歩は決まったな。庵の“東国の人”……そいつに会ってみよう」
こうしてギルドの制度作りは、ひとつの新しい芽を得ることとなった。
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