非公式の談義
王城の一室。
昼下がりの陽光を避けるように、重厚な扉の奥で人影が集まっていた。
机の上には封蝋も無い地図と数枚の記録紙。
王子レオンが座り、王妃エリシア、アルフォンス王も共に席に着いている。
そして、その場にはアルトとカイルの姿もあった。
「……宰相と教皇の動き、どうにも合点がいかない」
レオンが低く口を開いた。
「表向きは善政を掲げながら、裏でルナリアに人を送っている気配がある。証拠は掴めないがな」
アルフォンス王は重い息を吐き、椅子に深く背を預けた。
「決定的な証拠が無い以上、公にすれば逆にこちらが反逆者にされかねん」
エリシアが静かに言葉を継ぐ。
「世間に見えるのは“誠実な宰相”“敬虔な教皇”。
だからこそ、わたしたちの疑念は軽々しくは口にできないの」
アルトは黙考ののち、ゆっくりと口を開いた。
「外交の窓口を狭めれば、国の首を絞めることになる。
けれど、このまま彼らの思惑に踊らされれば、民が危うい……」
カイルもまた、眼鏡の奥の瞳を細める。
「教会内部でも軽率な動きは許されません。
それでも、彼らの振る舞いに影があることは確かです」
沈黙が数瞬、部屋を覆った。
レオンが手を組み、二人を真っ直ぐに見据える。
「だからこそ、君たち若い世代に動いてもらう必要がある」
その声音には、王子としてではなく、未来を託す一人の男の真摯さがあった。
アルトは深く一礼した。
「承知しました。民の声を背に、真実を探ります」
カイルもまた頷き、口を結んだ。
「教会に身を置く者として、見過ごすことはできません」
アルフォンス王は瞼を閉じ、わずかに微笑を浮かべた。
「……ならば頼もう。表立った旗はまだ掲げられぬ。だが君たちの目と耳が、この国の未来を護る」
その場に重苦しい決意が落ちた。
非公式の談義は、誰の記録にも残らない。
だが確かに、この瞬間から水面下の戦いは始まっていた。
お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。




