夜の女子会
庵の客間に並べられた布団。
灯りは小さく、三人の影だけが壁に映る。
外の森の音はすでに遠く、ここにあるのは呼吸と小さな笑い声だけだった。
アマネが仰向けになって天井を見つめる。
「こうやって布団を並べるの、なんだか学園の合宿みたいだね」
「でも、あの頃より……落ち着いている気がする」
リュシアは横になったまま、髪を撫でつける。所作は変わらず淑やかで、それでいて芯のある声だった。
エリスティアは少し肩をすくめ、吐息を漏らした。
「……私、あの時は戦って負けて……ここに来た。
みんなとこうして並んでいると、不思議と自分がまだ戦えるような気がしてくる」
沈黙が落ちる前に、アマネが明るい声で割り込む。
「じゃあ、明日の朝ごはんはご褒美だね。豪華に──」
「庵の質素な朝餉を侮らないで」
リュシアが即座に遮る。その横顔は聖女らしく凛々しい。
「朝は体を目覚めさせるための食事。
豪華さじゃなくて、清らかで整ったものの方がいいの」
「……説法みたいだな」
エリスティアがくすりと笑う。
「むぅ、寝る前に朝食の説教なんて、庵に泊まる特典かな」
アマネは布団に潜り込み、半分むくれた声を上げる。
三人の笑いが重なった。
緊張と恐怖に覆われていたはずの夜が、いつの間にか和らいでいく。
エリスティアは小さな声で呟いた。
「……ありがとう。こんな夜を過ごせるなんて、思わなかった」
リュシアは横から手を伸ばし、そっと握る。
「大丈夫。明日が来る限り、また笑える」
アマネも頷いた。
「そう。生きて帰ってきたんだから、それが一番の証だよ」
外では風が梢を揺らし、庵の屋根を撫でていた。
女子会のような小さな夜が、彼女たちの心を確かに繋いでいた。
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