幕間④:ギルドの産声(回顧)
幕間④「ギルドの産声」
(卒業後から祝賀会までの回顧)
古びた倉庫を借りたばかりの頃。
ジークは額の汗をぬぐいながら、乱雑に積まれた机や椅子を見回した。
「……これが“拠点”って呼べるかよ」
隣で帳簿をめくっていたミナが、肩をすくめて笑った。
「最初から立派な建物があるわけないじゃない。形はどうあれ、ここから始まるのよ」
志はある。だが、資金も人材も足りない。
集まるのは腕に覚えのある冒険者よりも、居場所をなくした若者や職を失った労働者ばかりだった。
「俺たちに、本当にやれるのか……」
ジークが吐き出すように言ったとき、重い靴音が響いた。
扉を開けて入ってきたのは、ミナの父──カストレード伯爵、ミケルだった。
厳しい眼差しで倉庫を一瞥し、低い声を響かせる。
「……まるで市場の残り物置き場だな」
ジークが慌てて立ち上がる。
「す、すみません。伯爵──」
「謝罪はいらん」
ミケルは杖を鳴らして近づき、机の上の帳簿に目を通した。
「規約はまだ甘い。人を束ねるというのは、理想を叫ぶだけでは務まらん」
ジークの拳が震えた。
「……承知しています。けど、俺は──」
「だが、失敗してもいい」
ミケルの声色が和らいだ。
「何もしなければ、何も変わらん。挑む者だけが、次を残せる」
ジークは息を呑み、視線を上げる。
ミナが父を見つめ、微笑んだ。
「お父さま……」
ミケルは厳しい表情のまま、二人を見据えた。
「資金も人脈も貸そう。ただし、甘えるな。
お前たちの夢を、私の名で汚すことは許さん。いいな」
ジークは深々と頭を下げた。
「必ず形にしてみせます」
夜遅く、机に突っ伏すジークの背をミナがそっと撫でる。
「大丈夫。お父さまも、本当は応援してくれてるわ」
ジークは顔を上げ、彼女の瞳を見つめた。
「……ああ、だから負けられない」
倉庫の窓から差し込む月明かりが、二人と、その夢を静かに照らしていた。
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