幕間②:若き王族の交渉(回顧)
(卒業後から祝賀会までの回顧)
王城の一室。
重厚な机を挟み、ソレイユの貴族たちと、隣国レグニアの商人団の代表が向かい合っていた。
議題は──国境市場での交易許可。
「我が国の治安を守るためにも、彼らの出入りは制限すべきです」
リヒャルト・フォン・グランディール公爵が低く言い放つ。
「不要な混乱を持ち込まれるだけだ」
「加えて」マティアス・フォン・グランツ侯爵が続ける。
「こちらが主導権を握らねばならん。条件は我らが決め、隣国は従うべきだ」
重苦しい空気が広がる中、アルトが口を開いた。
「確かに治安と主導権は大切です。しかし、閉ざすだけでは国は縮む。彼らもまた生活の糧を求めている。交渉は“相手を従わせる”ことではなく、“互いに損をせずに済む道”を探すことだと思います」
リヒャルトが鼻を鳴らす。
「理想論だな。若造らしい」
商人団の代表が不安げに視線を落とした。
アルトは彼らを真っ直ぐに見て、言葉を続けた。
「こちらは市場の安定を望む。そちらは交易の自由を望む。ならば──指定日に限って開市し、治安維持の兵を常駐させるのはどうでしょう。通行税を設け、それを治安費に充てれば、双方の利益になるはずです」
会議室にざわめきが走った。
商人団の代表が顔を上げ、深く頷いた。
「……その条件なら、我らも従いましょう」
マティアスが渋い顔で言った。
「甘すぎる。なぜ我らが譲歩せねばならん」
アルトは視線を逸らさずに答えた。
「譲歩ではありません。互いに必要なものを差し出す。それが国を豊かにする交渉だと信じています」
数人の若い貴族が頷き、リヒャルトは苛立たしげに黙り込んだ。
完全な勝利ではない。だが、誰もが顔を潰さずに済む落とし所が見えた瞬間だった。
会議後、アルトは静かに拳を握った。
「……これが俺のやり方だ。強さだけじゃない。声を聞き、道を選ぶ。それが未来をつくるはずだ」
彼の胸に芽生えた確信は、やがて訪れる大きな外交の嵐を迎える礎となるのだった。
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