幕間①:勇者と聖女(回顧)
(卒業後から祝賀会までの回顧)
地方の村を包囲するように、魔物の群れが蠢いていた。
夜明け前、凍りつくような空気の中で、アマネとリュシアは村の入口に立っていた。
「……数は多いけど、大型はいないみたい」アマネが剣を構える。
「ええ。浄化が効きやすい相手ね」リュシアが杖を握り直す。
戦いは短かった。
アマネの剣が闇を切り裂き、リュシアの祈りが瘴気を払う。
わずか一刻で、村を覆っていた脅威は霧散した。
歓声が上がり、村人たちが駆け寄ってくる。
「勇者様! 聖女様!」「これで安心だ!」
その中で、白髪の年長者が声を張った。
「やっぱり勇者様と聖女様に任せておけば安心だ! もう怖いものはない!」
人々はその言葉に頷き合い、二人に深く頭を下げる。
笑顔に満ちた光景──だが、アマネとリュシアの胸に残るのは、別の重さだった。
「……やっぱり、全部背負わされる感じね」リュシアが小声でつぶやく。
アマネは笑みを崩さずに頷いた。
「うん。でも、期待してくれる気持ちは嬉しい。だからこそ、応えたい」
人々が去った後、二人だけになる。
リュシアは草の上に腰を下ろし、空を仰いだ。
「アマネ。ねえ、私たち、どこまで頑張ればいいんだろう」
アマネは隣に腰を下ろし、同じ空を見上げる。
「さあ……。でも、一人じゃないから。あなたがいるし、みんなもいる。だから続けられるんだと思う」
リュシアは少し笑って、アマネの肩にもたれた。
「そうね。あなたがいるから、私は聖女でいられる」
「私もだよ。あなたがいるから、勇者でいられる」
二人は静かに笑い合い、寄り添った。
依存される立場に立ちながらも、互いに支え合う──その絆は、血よりも深い姉妹のようだった。
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