模擬演習開始—試練の森へ
夏の陽射しが強まり、石畳を照り返す光に目を細める。学園広場に集められた一年生は、背嚢と外套を整え、緊張した面持ちで整列していた。
壇上に立つのは、鋼のような肩幅を持つ教官――バルド・エッケル。その声は短く、鋭い。
「三日間の模擬演習を行う。目的は野営、索敵、連携。……生きて戻れ」
ざわめきが広がる。「生きて戻れ」の一言に、空気が一気に張り詰めた。
名簿が読み上げられる。
「第一班――アルト・ソレイユ、リュシア・フォン・カーディナル、ミナ・フォン・カストレード。
第二班――ジーク・フォン・ヴァルハルト、カイル・フォン・アウグスティヌス、アマネ。」
一瞬、空気が止まった。勇者の血を引くアルトと聖女リュシア、そこに庶民のミナ。対して第二班は、豪放なジークと理屈屋カイル、そして庵育ちのアマネ。
「……なんか、思ったよりバラバラだね」アマネが小声でつぶやく。
「効率的に言えば、まあバランス取れてるんじゃない?」ミナが肩をすくめて笑う。
ジークは斧を担ぎ直し、にやりと笑った。
「組み合わせなんざどうでもいい。強ぇかどうか、そんだけだ」
カイルは眼鏡を押し上げ、冷静に言う。
「班で課題を達成することが求められている。勝手な独断は減点です」
「減点で死んだら意味ないでしょー?」ミナが茶化すと、周囲に小さな笑いが生まれた。
やがて号令が下り、班ごとに出発する。
アルトは真っ直ぐ背を伸ばし、「西の小型魔物の掃討だ。報告は三日目の朝」と仲間に告げる。
リュシアは微笑み、「怪我をされたら、必ず合図をください」と静かに続けた。
アマネの班は南へ。水場と薪を探し、野営地を整えるのが役割。ジークが先頭に立ち、ミナは地図を覗き込み、カイルは羊皮紙に記録を取りながら歩く。
照りつける太陽の下、森の入口に影が伸びる。
そこに足を踏み入れた瞬間――蝉の声が止まり、ひんやりとした湿気が全身を包んだ。
胸の奥で、アマネは小さく息を整える。
「……よし、がんばろう」
模擬戦は始まったばかり。けれど、森の奥にはすでに不穏な気配が漂っていた。
読了感謝!模擬演習が始まります。更新は不定期ですが毎日目標です。ブクマ&感想が励みになります。




