芽吹きの現場
アマネはグラスを揺らしながら、真っ直ぐジークを見た。
「さっきの話、もっと詳しく聞きたいな。ギルドって、今どんなふうに動いてるの?」
リュシアも穏やかに頷く。
「ええ、私も。祈りで各地を巡ると“新しい仕組み”って噂を耳にするの。きっと、そのことよね」
ジークは少し照れくさそうに後頭部をかき、それでも真剣な表情で言った。
「……まだ形になったばかりだ。冒険者や傭兵の登録が百人ほど、職人や商人を合わせても三百に届かないくらい。けど、少しずつ信じてもらえてる」
「すごい数ね」リュシアが目を丸くする。
「ただ問題も多い。冒険者は腕っぷしはあるが荒っぽい。商人は利に聡いが危険を嫌う。性格も目的も違う人間を同じ机に座らせるのは骨が折れる」
ミナが補うように微笑む。
「でも、そのぶつかり合いが、かえって信頼につながるの。父もよく言ってたわ──『議論の火花は無駄じゃない。磨かれた石は光を放つ』って」
アルトが静かに頷いた。
「……カストレード伯爵らしい言葉だな。違う立場を束ねるのは、政治そのものだからな」
カイルも腕を組んで加わる。
「教会でも同じさ。信仰の形は人それぞれ。衝突を恐れず、どう歩み寄るかが大事なんだ」
ジークは二人の言葉に深く頷いた。
「そうだな……だからこそ、この仕組みを続けたい。俺たちが特別だからじゃない。普通の人が普通に支え合える場所を作るために」
アマネは少し考え込み、やがて笑みを浮かべた。
「……もし、頑張った人にご褒美があったら、もっと嬉しいんじゃないかな。報酬だけじゃなく、勲章とか証みたいなもの。小さなことでも“認められた”って思えると、人はもっと頑張れると思う」
ジークは目を瞬かせ、すぐににやりと笑った。
「なるほどな。金だけじゃなく誇りを渡すってわけか……悪くない」
リュシアが続ける。
「それと、人には得意不得意があるから、仕事を能力に応じて選べるようにすればいいと思うの。例えば、危険度や必要な技量で“段階”を分けていけば、無理をせず挑めるはず」
カイルが感心してうなずく。
「それはいい。教会の務めも同じだ。新人には軽い務めを、熟練者には重い務めを。人の成長を支える仕組みになる」
ジークは目を見開き、頷いた。
「……ランク分けか。考えてもみなかったな。今は一律に扱ってるから、揉め事も起きやすい。取り入れてみる価値はある」
ミナが嬉しそうに笑った。
「やっぱり六人揃うと、いい案が生まれるわね」
アマネは照れ隠しにグラスを掲げた。
「みんなで考えたら、もっと面白いものになりそうだね」
ジークは少し顔を赤らめ、それでも力強く言った。
「……ああ。ギルドはまだ小さな芽だ。でも、お前らの言葉でその芽に水をやれた気がする」
六人の輪に、未来を見据える確かな熱が広がっていった。
芽吹いたばかりの仕組みは、やがて国を支える大樹へ育つ──その予感と共に。
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