新たなる挑戦
ジークは空になったグラスを置き、真剣な顔で仲間を見渡した。
「……ギルドの話をしようか」
その一言に、六人の輪がすっと静まった。
祝宴のざわめきは遠のき、テーブルの周囲だけが別の空気に包まれる。
「三年間、ずっと考えてた。俺たちみたいな特別な連中じゃなくても、民が自分で立ち上がれる仕組みを作れないかって。王宮や教会に頼るだけじゃなく、互いに助け合える土台をな」
アマネが目を細める。
「それが……ギルド?」
ジークは力強くうなずいた。
「そうだ。冒険者も、職人も、商人も。立場や出自を超えて力を貸し合える場所。王族や聖職者じゃなくても、国を支えられるって証明したい」
言葉を聞きながら、ミナが穏やかな笑みを浮かべる。
「でも、形にするのは簡単じゃなかったの。資金も、場所も、人の信頼も……足りないものばかりで」
グラスを胸元で抱え、少し視線を落とす。
「そこで助けてくれたのが、父なの」
アルトが頷いて口を添える。
「……カストレード伯爵だね」
「ええ」ミナは誇らしげにうなずいた。
「父は『夢を笑って国は前に進むのか』って言ってくれて。最初に後ろ盾になってくれたの。だから信用を得られて、訓練所を整えて、登録制度を始められたんだ」
リュシアの瞳が潤む。
「素晴らしいわ……理解ある方なのね」
ジークも力強く言葉を重ねた。
「ああ。伯爵の支えがなかったら、ギルドは夢のままで終わってた」
カイルがグラスを傾けながら、思案するように口を開く。
「つまり、王宮や教会の枠組みとは別に、民が自立して動ける基盤ができる……。それは確かに新しい挑戦だね」
アルトは真剣な眼差しでジークを見据える。
「だが、制度化するには法整備が欠かせない。俺が協力できるとすれば、そこだ。ルールを明確にしなければ、悪用される危険もある」
ジークは一瞬言葉を失ったが、やがて真っ直ぐ頷いた。
「……頼む。俺には熱意はあっても、法の細かさまでは分からない」
アマネが微笑み、グラスを傾けた。
「でも、こうして聞くと、すごく“人の力”なんだね」
その言葉に、アルトが静かに頷いた。
「……ああ。勇者や聖女に頼るだけじゃ、国は長く続かない。ギルドの存在が、その穴を埋めることになる」
カイルも続ける。
「人が自分で動き、助け合う仕組み。信仰や王権を超えて、それが根付けば……きっと強い力になる」
ジークは照れくさそうに鼻を鳴らした。
「大げさだな。でも、目指すのはそこだ」
ミナが笑みを浮かべ、誇らしげに彼を見つめた。
六人の輪に、未来を思わせる確かな熱が広がっていった。
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