再会の杯
壇上での演説を終えたアマネとリュシアは、拍手に包まれながら会場へと戻った。
豪奢な料理が並ぶ立食形式の大広間は、祝宴のざわめきに満ちている。
銀皿に並ぶ焼き肉や、煌めく果実酒。ワインの赤は炎に映えて、冬の冷えを忘れさせるほどだ。
「……やっぱり肩がこるね」
「ええ。でも、終わったと思うと、少しほっとするわ」
互いに小声で笑い合ったそのとき、ひときわ大きな声が響いた。
「おーい! 勇者様と聖女様のおなーりだ!」
ジークが大げさに手を振っていた。
隣でミナも笑顔でグラスを掲げている。
二人の姿に安堵したように歩み寄ると、すぐにアルトとカイルも現れた。
「ようやく揃ったな」アルトが微笑む。
「三年ぶりにじゃないよね?」ミナが茶目っ気たっぷりに言う。
「うん、みんなとはちょこちょこ会ってた。でも、六人揃うのは本当に久しぶり」アマネが答えると、自然と輪ができた。
アルトが声を張る。
「じゃあまずは──乾杯だ。三年間を乗り越えて、それぞれ頑張ってきて。今日、再び六人揃えたことに」
「乾杯!」
澄んだ音が重なり、笑顔が弾ける。
公的な緊張は解け、仲間だけの時間が始まった。
「なぁ、アマネ」ジークが肩を叩く。
「北方の遠征のときは参ったな。あの吹雪ん中で魔物とやり合うとか、正気の沙汰じゃなかった」
「うん……でも、ジークがいたから突破できたんだよ」
「ははっ、勇者様にそう言われたら悪い気はしないな」
「私は西方の交易路で一緒になったわよね」ミナが目を輝かせる。
「あの時アルトが書類抱えてブツブツ言ってたの、今でも覚えてる」
「……余計なことを覚えてるな」アルトが咳払いをし、場が笑いに包まれた。
カイルもグラスを傾けながら言う。
「僕はリュシアと南の村で同行したね。祈りの力で救われた人が、今でも手紙を送ってくれるんだ」
「……懐かしいわ」リュシアが柔らかく頷く。
思い出話が自然に重なり、笑いが絶えない。
それぞれ違う道を歩んでいたはずなのに、節目ごとに交わってきた。
全員がこうして顔を合わせるのは久々だが──絆は絶えず続いていたのだ。
アマネはふと、仲間を見渡した。
三年前と同じ顔ぶれ。けれど、誰もが少しずつ変わっている。
大人びた表情、強くなった眼差し。
「……やっぱり、みんな変わったね」思わず漏らすと、リュシアが微笑んだ。
「ええ。でも変わらないものもある。こうして集まれば、すぐに分かる」
六人の笑い声は、祝宴のざわめきに溶けていった。
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