新年祝賀会
王都の大広間は、冬の冷えを忘れさせるほどの熱気に包まれていた。
天井から吊るされた大燭台の炎は、壁に仕込まれた鏡に映り込み、光を幾重にも反射させる。
金と赤を基調とした幕がはためき、華やかな音楽隊の調べがざわめきを支えていた。
新年を祝う式典──今年はとりわけ意味深い。
勇者と聖女が誕生してから三年目。国王の言葉を聞こうと、人々は息をひそめていた。
「この三年で、国は安定を取り戻した。民は再び笑顔を見せ始めている。我らはこの歩みを誇るべきだ」
国王の声が響く。続く拍手は大広間を揺らした。
やがてその音が静まると、司会の声が高らかに響いた。
「続きまして──勇者アマネ・シルヴァン殿、聖女リュシア・フォン・カーディナル殿!」
扉が開かれる。
黒髪を結い上げた少女と、金の髪を柔らかく揺らす少女が並んで歩み出た。
アマネ・シルヴァンとリュシア・カーディナル。
呼吸も歩幅も揃い、まるで双子のような一体感で。
壇上に上がると、二人は互いに目を合わせ、小さく頷きあった。
アマネが一歩前に出る。
「……三年前、ここで勇者の儀を受けたとき、私はただ震えていただけでした。勇気も覚悟もなく、仲間に支えられて立っていました。でも、この三年で気づいたんです。国を守るのは勇者の力だけじゃない。日々を懸命に生きる人々、家族を支え合う人々──その一人ひとりが支えとなって、国は前に進めるのだと」
兵士たちが頷き、庶民出身の来賓が目を潤ませる。
勇者の言葉は遠い存在ではなく、同じ目線で語られていた。
リュシアが前に出て、静かに声を重ねる。
「聖女として祈る日々を送りながら、私は光は一人では生まれないと知りました。祈りも癒しも、誰かの営みがあって初めて意味を持つ。私ができるのは、その祈りを束ね、小さな灯火を守ることです。その灯を絶やさぬように──皆さんと共に歩みたいと思います」
謙虚でありながら、自分の役割を自覚する言葉。
二人の声は自然に重なり合い、欠けを補い合う。
それは一本の糸で結ばれた双子のように、勇者と聖女の絆を示すものだった。
広間を大きな拍手が包み込む。
王族も、教授たちも、奏の会の仲間たちも、誰もが二人を讃えた。
壇上の隅に控える宰相マクシミリアン・フォン・ヴァレンティス、教皇ヴィクトル・デ・ローザリアの姿もそこにあった。
その表情は読めなかったが、少なくとも今は祝福の中に立っていた。
壇を降りた二人は、互いに小声で囁く。
「言えたね」
「ええ。私たちの言葉で」
誰に聞かれることもない、ほんの短い会話。
だがその響きは、三年間を支え合った確かな絆を物語っていた。
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