旅立ちの光—卒業式
春の陽光が差し込む大講堂。荘厳な装飾に囲まれた舞台に、今年の卒業生たちが並んでいた。
中央にはアルト、その隣にアマネ、ジーク、ミナ、カイル、リュシア。共に歩んだ日々の結晶を胸に刻みながら、ひとりひとりが凛とした面持ちで立っていた。
ざわめく会場を静かに見渡した後、アルトが前に進み出る。
王族として、勇者候補として、そして一人の少年として。
彼の声はよく通り、大講堂に響いた。
「この三年間、私たちは学び、戦い、迷いながらも歩んできました。
時に仲間と衝突し、時に己の無力を思い知りました。
けれど――決して諦めず、共に未来を切り開くと誓い合った。
だからこそ、今ここに立っています」
壇上に視線を向ける者、涙をぬぐう者。後輩たちが真剣な眼差しでアルトの言葉を受け止めていた。
「私は、兄レオンと共に、この国をより豊かにするために力を尽くします。
皆もまた、それぞれの道で光を灯す者となるでしょう。
どうか胸を張ってほしい。私たちは、誇りを持ってこの学園を巣立つのです」
最後の一言を告げると、大講堂が拍手に包まれた。
誰もが「この世代は特別だ」と感じ取る瞬間だった。
式の終わり、アマネはふと胸が熱くなるのを覚えた。
自分が勇者と呼ばれる日々も、聖女と呼ばれるリュシアの隣に立つ日々も――すべて、ここから始まったのだと。
(お母さん……エリシア様が庵から誘ってくれなければ、私はここにいなかった。
でも今は、こんなに大切な仲間と、未来を歩くことができる)
退場の列で隣に並んだリュシアが小さく囁く。
「アマネ……これからも、一緒に」
「うん、絶対に」
二人の指先がそっと触れ合い、誓いのように結ばれた。
――
式が終わり、人の波が静まりつつある中。
アルトはアマネを呼び止める。人目を避けるようにして。
「アマネ。君に伝えたいことがある」
「……アルト?」
その瞳はいつになく真剣で、揺るぎない光を宿していた。
「僕は……勇者ではなかった。けれど、それでいいと思っている。
君が勇者で、リュシアが聖女で――だからこそ、僕は王族として国を支え、そして……」
少し言葉を切り、深呼吸する。
やがて真っ直ぐに告げた。
「君を幸せにしたい。必ず」
アマネの胸が大きく跳ねた。 答えられないほど胸がいっぱいで、それでも笑みだけは自然にこぼれる。
「……ありがとう。私も、隣にいると安心するの」
アルトも口元を和らげるが、その表情はすぐに引き締まった。 「ただ……すぐに“交際しています”なんて言える立場じゃない。王族という枠の中で、軽々しく口にできることじゃないんだ」
アマネは小さく頷いた。 「うん、わかってる。でも……言葉じゃなくても、気持ちは伝わってる」
二人の間に静かな沈黙が流れ、やがて自然に微笑み合う。 確かに「形」はまだ持てない。けれど、それ以上に強い「約束」が心に刻まれた。
春風が二人の髪を揺らし、新たな未来を祝福するように包み込む。
――
こうして、勇者アマネ、聖女リュシア、そして仲間たちの三年間は幕を閉じた。
だが彼らの物語は、まだ始まりに過ぎない。
新たな戦乱、隣国の危機、そして魔王復活の影が忍び寄る――。
それでもきっと、この仲間たちなら乗り越えられる。
民衆もまた、そう信じ始めていた。
学生編はここで一区切りです。次章から社会人編へ。引き続き応援よろしくお願いします!
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