彼女たちの日常—小さな成長
新年の儀からしばらく。
王都のざわめきもようやく落ち着きを取り戻しつつあり、学園にはまた規則正しい日常が流れていた。
◇
「アマネ、次の模擬戦、組もうか」
中庭で声をかけてきたのはアルトだった。
「いいよ!」
アマネは迷いなく頷き、刀を抜く。以前なら「私なんかでいいの?」と口ごもっていたはずだ。
けれど今は違う。勇者としての自覚を抱き、皆の前に立つことをためらわなくなっていた。
模擬戦が始まると、その動きは鋭く、的確だった。
「おい、あれ……本当にアマネか?」
観戦していた生徒たちがざわつく。
アルトも剣を受けながら「本当に強くなったな」と笑みをこぼす。
アマネは刀を振り下ろしつつ、楽しそうに「まだまだ、もっと速くなるよ!」と声を張った。
◇
一方、魔導演習場ではリュシアが立っていた。
彼女の前には的が並び、周囲には下級生たちの視線が集まっている。
深呼吸して、リュシアは両手を合わせる。
「――光よ、矢となりて」
眩い閃光が一直線に飛び、的を鮮やかに貫いた。
歓声が上がる。「やっぱり聖女様だ……!」と憧れの声が混じる。
だがリュシアは首を横に振って微笑んだ。
「私は聖女だからじゃなくて、私自身の力で……守りたいのです」
その言葉に、下級生の女の子が「かっこいい……!」とつぶやいた。
◇
放課後。
談話室に仲間が揃うと、ミナがテーブルを叩いた。
「ねぇ! 二人とも今日の授業、めちゃくちゃカッコよかったじゃない!」
「ほんと、だんだん板についてきたな」ジークが腕を組み、にやりと笑う。
カイルも眼鏡を押し上げ、「アマネの剣は理にかなっていた。リュシアの魔力制御も安定している。努力の成果だな」と分析を添える。
アマネは少し照れながらも胸を張った。
「ありがと。勇者って呼ばれるの、もう怖くないんだ。だって、みんなが一緒にいるから」
リュシアも隣で頷く。
「私も。聖女としてじゃなく……リュシアとして、この場所にいられるから」
「……もぉ〜、二人とも最高!」
ミナが両腕を広げて抱きつき、ジークが呆れ顔で引き剥がそうとする。
談話室には笑い声が響き、窓の外には春の兆しが柔らかく差し込んでいた。
――勇者と聖女。けれど、それ以上に。
彼女たちはただの学園生として、仲間と過ごす日々を大切にしていた。
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