表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/471

嵐の前 ―赤き影

夏至が近づき、学園の空は曇りがちになっていた。湿った風が渡り廊下を吹き抜け、生徒たちの間に微妙なざわめきを運んでくる。

「次の月例訓練は、三クラス混合での模擬戦とする」──教師の告知が広まったからだ。

模擬戦。

三か月間の座学と訓練の成果を、班ごとに示す舞台。

勝敗はあくまで学びのため、と説明された。だが、実際には貴族や派閥の評価の場でもあった。

「やっぱりA組が有利だろ」

「勇者殿下と聖女様が一緒なんだから、決まりきった茶番だ」

「C組? 荷物持ち要員さ」

そんな声があちこちで交わされる。

湿った空気の中で、重たい予感だけが膨らんでいく。

その日の午後、中庭に人だかりができていた。

中心に立っていたのは、燃えるような赤髪の少年──ラインハルト。

「模擬戦だと? ようやく俺の力を見せる舞台が来たわけだ!」

木剣を振り下ろすと、石畳がカンと響き渡り、取り巻きの生徒たちが喝采した。

「流石はグランツ卿のご子息!」

「炎の申し子だ!」

ラインハルトは得意げに笑みを浮かべる。

確かに力はある。だがその剣筋には余計な力が入りすぎ、周囲に散った火花が柵を焦がしていた。

それを見ていたカミル助教は眉をひそめ、小声で「危うい」と漏らす。

一方、遠巻きに見ていたバルド教師は腕を組み、「豪胆こそ強者の証だ」と呟いた。

教師たちの視線すら分かれる、その少年。

「……危なっかしいね」ミナが隣で肩をすくめる。

「でも、評価はされるんだろうな」カイルが冷静に眼鏡を押し上げる。

「派手さは目を引きますから」

ジークは鼻を鳴らした。

「力任せじゃ長くはもたねえ。模擬戦で俺が証明してやる」

彼らのやり取りを、アマネは黙って聞いていた。

曇天の下、赤髪の少年が炎を振るう姿。

その派手さの裏で、どこか影のように揺らめく危うさを、彼女は感じ取っていた。

「三日後、模擬戦を行う」

広場に響く教師の声が、ざわめきを締めくくった。

雲間からわずかに差した光が、剣を振るうラインハルトの赤髪に重なった。

それは炎の輝きというより、嵐を告げる火種に見えた。


読了感謝!ここから少し緊張感が増します。更新は不定期・毎日目標。ブクマ&感想いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ