仲間への報告—それぞれの決意
夜の学園は静かに沈み、談話室だけが柔らかな光に包まれていた。
暖炉にはぱちぱちと小さな炎が揺れ、木の香りを漂わせている。そこに集まっているのは、勇者候補の六人。アマネ、アルト、ジーク、ミナ、カイル、そしてリュシアだ。
普段なら雑談や冗談が飛び交うはずの場所も、今夜はどこか引き締まった空気が漂っていた。勇者の儀を終えたあと、皆が胸に抱えているものは大きい。自然と「これからどう歩んでいくか」という空気になっていく。
そんな中、リュシアが静かに立ち上がった。
淡い灯火に照らされた横顔は、少し緊張しているのが見て取れる。それでも、彼女は真っ直ぐに皆を見渡した。
「……あの、皆さんに伝えたいことがあります」
一拍置いて、彼女は小さく息を整えた。
そして、はっきりと告げる。
「……カイルと、付き合うことになりました」
談話室に一瞬、しんとした沈黙が落ちた。
次の瞬間――。
「わぁっ! リュシア、おめでとう!」
アマネが弾む声を上げ、真っ先に拍手を始めた。
それに釣られるようにジークも「やっとか」と肩をすくめながら手を叩き、ミナが「きゃー、やっぱり! 絶対そうだと思ってた!」と大騒ぎする。
カイルは真っ赤になり、少しうつむきながらも口を開いた。
「ぼ、僕も……彼女を支えたいと思っています」
それを聞いたジークが苦笑しながら言う。
「まったく……似合ってるよ、お前ら」
アルトも真摯な眼差しで二人を見つめ、「おめでとう。二人なら、どんな困難も越えられるさ」と穏やかに祝福を送った。
笑いと拍手に包まれ、談話室の空気は和やかに変わっていく。
――その中で、アルトは静かにグラスを見つめていた。
幸せそうに寄り添う二人を見て、胸の奥に自然と決意が芽生える。
(リュシアはカイルと、ジークにはミナがいる。ならば……俺は――)
心に浮かぶのは、隣に座る少女の姿。
無邪気に笑うアマネ。誰よりも真っ直ぐで、誰よりも人を思える存在。
(俺は、アマネと共に未来を歩む。勇者でなくとも、王として彼女を支える男にならねばならない)
その横顔に宿る光は、嫉妬ではなく覚悟の色だった。
ふと、アマネが首をかしげて声をかけてきた。
「アルト、難しい顔してるよ? 大丈夫?」
アルトははっとして、穏やかに微笑んだ。
「心配いらない。……君の隣に立つために、強くならなきゃと思っただけだ」
その言葉に、アマネは驚いたように目を瞬かせ、そして頬をほんのり赤らめた。
「……うん。頼りにしてる」
小さな声だったが、確かな思いが込められていた。
やがて皆で笑い合い、未来の話を交わす。
ジークはギルドの夢を語り、ミナがそれに無邪気に茶々を入れる。カイルとリュシアは互いを見て照れくさそうに笑い、アマネとアルトは肩を並べて前を向く。
外では秋の風が木々を揺らし、月明かりが窓から差し込んでいた。
それぞれが進むべき道を胸に刻みながら、仲間たちの夜は、温かく更けていく。
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