訓練場のきらめき—芽吹く想い
学園の訓練場は、初冬の空気に包まれていた。木剣の打ち合う音や、模擬戦の掛け声が響き渡り、学生たちの熱気で空気が揺らぐ。
アマネは額に浮かんだ汗を拭いながら、ようやく模擬戦を終えて木陰に腰を下ろした。呼吸は少し荒いが、去年と比べれば格段に余裕がある。そんな彼女の前に、ジークが歩み寄り、水筒を軽く放ってよこした。
「おつかれ。……なあ、アマネ」
「ん? なに?」
「剣筋、かなり理にかなってきたな。前は本能任せに振り回してたけど、今日は意図して相手を崩してた。努力の証拠だ」
アマネは目を丸くした。自分では必死に食らいついているだけだと思っていたのに。
「えっ……ほんと?」
「ああ、俺が言うんだから間違いないさ」
ジークの爽やかな笑みがまぶしく、アマネは思わず頬を赤く染めた。
胸の奥に、くすぐったいような、でも誇らしい温かさが広がっていく。
その時だった。
訓練場の隅に立てかけられていた模擬戦用の槍立てが、風に煽られてぐらりと揺れ、大きな音を立てて傾いた。すぐそばにいたリュシアは振り返る間もなく――
「危ない!」
鋭い声とともに、カイルが駆け寄る。
次の瞬間、彼はリュシアの腕をぐっと引き寄せ、崩れかけた槍の下敷きになるのを防いだ。槍が乾いた音を立てて地面に転がり、訓練場の喧噪に紛れて響く。
「……っ」
リュシアの心臓が跳ねる。
肩を抱かれる形で守られ、彼の胸の鼓動を近くに感じながら、思わず見上げてしまった。
カイルは僅かに眉を寄せつつ、淡々とした声で言った。
「……怪我はないか?」
「……は、はい。ありがとうございます」
リュシアの声は震えていたが、その頬には赤みが差していた。
カイルも、掴んだ腕を離すタイミングを一瞬迷ったように、わずかに息を呑んでから手を放した。
仲間たちの笑い声や掛け声が聞こえるはずなのに、不思議と遠い。
二人の間だけ、静かで張り詰めた空気が流れていた。
アマネはその光景をちらりと見て、胸を高鳴らせながらも微笑む。
ジークの言葉が背中を押してくれたように、リュシアにも大切な瞬間が訪れている――そんな予感があった。
訓練場のきらめきは、ただの汗や木剣の光ではなかった。
それぞれの心に芽吹いた想いが、確かにそこに輝いていた。
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