表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/471

湯けむりの絆—未来を語らう夜

王妃エリシアの私室に設けられた隠し湯殿。

天井は高く、窓から月光が差し込む。湯けむりが柔らかに立ちのぼり、石造りの浴槽の縁には白百合や薔薇の花弁が浮かべられている。壁には王家伝来の魔石灯が淡く光を放ち、湯面を銀色に染めていた。

「わぁ……すごい……」

アマネが思わず声を漏らした。普段は寮の浴場で十分満足している彼女にとって、この静謐で優美な空間は別世界のようだった。

ミナが隣で両手を広げ、子どものようにはしゃぐ。「きゃーっ! これ、完全にお姫様のお風呂じゃん! ほら、見てアマネ! 花びらが浮いてるよ!」

「うん……! なんだか夢みたい……」アマネは頬をほんのり赤らめ、湯面を見つめて微笑んだ。

リュシアは白いローブを脱ぎ、静かに湯へと足を入れる。最初はわずかに表情を強張らせていたが、すぐに頬がゆるみ、吐息がもれた。

「……温かい……心までほどけてしまいそうです」

「そう、それでいいのよ」クラリスが優雅に微笑みながら、リュシアの背後にまわり、三つ編みをほどいて指で丁寧に梳きはじめた。

「リュシアの髪、本当にきれいね。光が差すと金糸みたいに輝くわ。私のような大人でも羨ましくなるくらい」

「や、やめてください……恥ずかしいです」リュシアは頬をさらに赤くし、けれど声はどこか嬉しそうだった。


その横で、ミナがアマネの背中に手を伸ばす。

「アマネ〜! ほらほら、泡! ほらっ、背中ごしごし〜!」

「ひゃっ!? ちょ、ちょっとミナぁ! くすぐったいからぁ!」

「いいじゃんいいじゃん! こういう時くらい、思いっきり甘えてよ!」

「うぅ……でも……あははっ、なんか楽しい……!」

アマネは笑い声をあげ、無邪気な表情を見せる。その顔に、エリシアは目を細めた。

「ふふ……やはり、あなたは笑っているときが一番きれいね、アマネ。」

「え、えっ……そ、そんな……!」

照れて慌てるアマネを見て、ミナは「ほら見てリュシア! 顔が真っ赤だよ!」とまた茶化した。

「アマネのそういうところ……わたし、好きです。」リュシアが小さく囁くと、アマネはさらに頬を染めて「り、リュシアまで……!」と声を上げる。


クラリスはそんな二人を見て、優雅に肩をすくめた。

「やれやれ……去年までのあなたなら、『私なんか』なんて言い出したでしょうに。少しは自信を持ちなさいな。あなたが“アマネ”であること、それだけで皆を笑顔にできるのだから。」

その言葉に、アマネの瞳が潤み、リュシアが隣でぎゅっと彼女の手を握る。

「アマネ……普通の女の子でいられるの、ここだけかもしれない。でも……あなたと一緒なら、それで十分。」

「……リュシア……うん、私もそう思うよ。勇者とか聖女とかじゃなくて、ただの私でいられる時間、すごく嬉しい。」

二人は顔を寄せ合い、姉妹のように微笑み合った。


やわらかな香油の香りと、湯気のヴェールに包まれる夜。

湯殿の隅では、ミナが泡を両手いっぱいにして「泡のひげ〜!」とふざけ、クラリスが「もう、子どもみたい」と呆れながらも笑っていた。

エリシアはゆったりと湯に身を沈めながら、娘たちの笑顔を見守るように言葉を紡いだ。

「あなたたちがいる限り、この国の未来はきっと明るいわ。だから、どうか忘れないで。自分が笑っていられることが、どれほど大切かを。」

その声音は、母が子に語りかけるようにあたたかく、アマネとリュシアはうるんだ瞳で頷いた。

ミナが勢いよく声をあげる。「よーし! 次の誕生日はもっと派手にお祝いしよ! 卒業式の前に、盛大にね!」

「ミナさんったら……」リュシアは小さく笑い、

「でも……楽しみだね、アマネ。」

「うん! 絶対にまた、みんなで祝おう!」

三人の声が湯けむりの中に重なり、エリシアとクラリスの微笑みもその輪に溶けていく。

静かで、華やかで、そして何より温かな夜が、更けていった――。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ