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余波—広がる声と研究者たち

新年の勇者の儀から数日。

王都は、まだ熱の醒めぬ祭の余韻に包まれていた。


1. 街の声

市場の片隅。果物を売る老婆が、手にした籠を揺らしながら目を輝かせる。

「見たかい、あの光! 王城から夜空に立ちのぼったあの輝き……。あれが勇者さま、聖女さまの証なんだろう?」

隣で野菜を並べていた青年商人が頷く。

「しかも二人は同じ誕生日なんだってよ。やっぱり神さまのお導きに違いない」

「これでこの国も安泰だ。魔物なんざ怖くない!」

酒場でも噂は尽きなかった。

「勇者は殿下じゃないのか? いや、確かに剣を振るったのは、あの黒髪の娘だった」

「聖女さまは以前よりもずっと人らしい笑顔をしていたな。まるで普通の女の子みたいで……」

「いや、普通の女の子じゃない。神が選んだ二人だ!」

子供たちまでもが真似をして遊んでいる。

「僕が勇者だ!」

「じゃあ私は聖女! 祈りで君を守るわ!」

その笑い声に、大人たちは目を細める。希望の象徴は、確かに人々の心を照らしていた。


2. 学園内

学園の講堂脇でも、学生たちの間で勇者の儀の話題は持ちきりだった。

「やっぱり勇者はアルト殿下だろ? だって国の次期王だし」

「でも、最後に光を受けたのはアマネじゃなかったか?」

「それに聖女のリュシアと誕生日まで一緒だって……。どう考えても特別すぎる」

最初は「誰が勇者か」で言い合っていた声も、やがて次第に別の形に変わっていく。

「でもさ……勇者が誰とかより、あの六人の班、最強じゃない?」

「ああ。殿下もいるし、公爵令嬢のミナも、ヴァルハルト家のジークも。あのパーティなら、どんな魔物が来ても勝てる」

「勇者と聖女だけじゃない。“仲間”がそろってるんだ」

勇者候補班――そう呼ばれてきた六人は、もう単なる候補ではなく「王国の守り手」として語られ始めていた。


3. 研究者たちの熱

王立学術院。学者たちの間では、熱狂的な議論が巻き起こっていた。

「建国の勇者の記録を、もう一度洗い直さねばならん!」

「千年に一度の奇跡……。やはり周期説が正しかったのでは?」

「いや、偶然にすぎん。だが神意である可能性も……」

机には古文書や古代の石版が広げられ、白熱した声が飛び交う。

中には「聖霊召喚の条件は何か」「勇者と聖女の共鳴は必然か」と、専門分野を飛び越えた論争さえ起きていた。

その場に顔を出した学園長エジル・カーネルは、呆れたように眼鏡を押し上げる。

「諸君。議論は結構だが、まずは現実を直視すべきだろう。――あの場で光が示された。それ以上の事実はあるまい」

学者たちは一瞬黙り込むが、次の瞬間にはまた声が上がる。

「いやしかし、祈りの詠唱は……」

「建国の聖女は……」

エジルは小さく溜息をついた。

(これでまた、“勇者学”や“聖女学”なる新たな学問分野が生まれるのだろうな……)


4. 二人の素朴な時間

一方、学園の中庭。

凛と冷えた冬の空気の下、アマネとリュシアは肩を並べて座っていた。

遠くからはまだ、広場の方のざわめきが聞こえる。

「……なんだか、私たちの知らないところで大騒ぎになってる」

アマネが苦笑混じりに呟く。

リュシアは少し考えてから、静かに頷いた。

「でも……皆が笑顔でいるのは、嬉しいです。私たちがその理由になれたなら……」

アマネは横顔を見て、ふっと笑う。

「うん。なんか、誇らしいね」

リュシアも微笑み返し、そっとアマネの手を握った。

世間では「勇者と聖女」と持ち上げられていても、彼女たちにとってはただ――隣にいる大切な友達。

その温もりを確かめ合いながら、二人は静かに夜空を見上げた。

そこに瞬いていたのは、誰よりも素直で、揺るぎない光だった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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