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勇者の儀—光と誓いの刻

新年の澄んだ空気が、王都全体を包み込んでいた。

冬の冷気は張り詰めるように肌を刺すが、広場に集った群衆の熱気はそれを凌駕する。

数千、いや万を超える民がひしめき合い、城下の大通りから王城前の広場に至るまで、人、人、人で埋め尽くされていた。

広場中央には白布で覆われた荘厳な祭壇が設けられ、金糸で縁取られた紋章が光を反射する。

空高く掲げられた旗は冷たい風に揺れ、国の威信を示すようにたなびいていた。

「――新年を迎えし今日、ソレイユ王国は改めて民と共にあることを誓う」

朗々と響いたのは、国王アルフォンスの声だった。

その胸板は厚く、戦場に立つ武人としての気配を未だ失ってはいない。

普段は決断をためらうことの多い男だが、この瞬間の声音には揺るぎがなかった。

民衆の視線が一斉に王へ注がれる。

だが、その隣に立つ王妃エリシアの気品ある微笑が、さらなる安堵を人々の胸に灯した。

「――我らの国には、神が遣わした光がある」

エリシアの言葉と共に、二人の少女が前へ進み出た。

アマネ。

リュシア。

互いの手をぎゅっと握り、ゆっくりと祭壇に上がる。

その歩みは震えひとつなく、民の目を真っ直ぐに受け止めていた。

――凛々しく、美しい。

その姿に、広場を埋めた群衆がどよめく。

「二人だ……勇者と聖女だ……!」と囁き合う声が波のように広がっていった。

祭壇中央。

リュシアが一歩前に出る。

白銀の髪を揺らし、凛とした瞳で空を見上げる。

その口から紡がれる祈りは、もう“人形”のものではない。

澄んだ声は鐘の音のように広場全体に響き渡り、民衆の胸を震わせた。

「どうか……この国を導きし光よ。

勇気を求める者に、希望を。

未来を信じる者に、強さを。

――この祈りに応えてください」

瞬間。

空が揺らいだ。

白雲の切れ間から金色の光が溢れ、柔らかな風と共に広場を包み込む。

人々は息を呑み、手を合わせる者、涙を流す者すら現れた。

光の中心から、ひとつの存在が舞い降りる。

――聖霊。

純白の羽を思わせる輝きの塊。

その姿は明確な輪郭を持たぬまま、暖かな圧を広げる。

神話にしか記されなかった存在が、今ここに顕現した。

聖霊は静かにリュシアの前に降り立つ。

だが次の瞬間、その光はふわりと揺らめき――アマネへと近づいていった。

「……今回も、来てくれたんだね」

アマネが呟く。

その表情は恐れではなく、無邪気な笑顔だった。

あたかもカグヤに手を伸ばすように、自然に聖霊へと歩み寄る。

聖霊の光が彼女の刀を包み込み、刃は眩い光を帯びていく。

その瞬間、広場全体に熱気が走った。

「勇者だ……!」

「彼女が……勇者なのか!」

歓声と驚嘆が交錯し、人々は互いに肩を揺さぶり合いながら叫ぶ。

アルトはその光景を見つめながら、静かに微笑んだ。

嫉妬はなかった。

ただ一言、心の内で呟く。

「やっぱり……君なんだな」

――その隣を歩むと決めた少女が、勇者であることに何の迷いもなかった。

ジークは腕を組み、「大したもんだ」と短く言った。

ミナは隣で「ほらね! うちのアマネはすごいんだから!」と声を張り上げる。

カイルは冷静に「これで国も教会も動かざるを得ないだろう」と呟いたが、その瞳の奥は確かな誇りで揺れていた。

やがて王アルフォンスが一歩前へ。

その声は、熱狂の渦をさらに押し広げる。

「民よ! 見よ!

これこそがソレイユ王国の光!

勇者と聖女――神が我らに与え給うた守護の証だ!」

雷鳴のような歓声が広場を突き抜けた。

人々は涙を流し、互いに抱き合い、頭を垂れる。

「国は守られる!」「この国に未来がある!」と希望の叫びが響く。

アマネとリュシアは、民の前で再び互いの手を握り合った。

凛とした笑みを浮かべ、同時に口を開く。

「「――共に歩んでいきます!」」

その声は重なり合い、冬空を突き抜けて響き渡った。

こうして勇者の儀は完了した。

それは試練ではなく、祝福の瞬間だった。

ソレイユ王国に、新たな時代が幕を開ける。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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