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密やかな伝達—王妃の部屋にて

王城の奥、王妃エリシアの私室。

重厚な絨毯に、淡い色合いの花瓶が並び、窓辺には季節の花が柔らかく香っていた。華美すぎず、しかしどこか母性的な温もりを感じさせる空間だった。

「ここなら余計な耳は届かないわ」

エリシアは静かに告げ、背後に控える侍女たちに一礼させて下がらせた。

呼び出されたのは、アマネ・アルト・ジーク・ミナ・カイル・リュシアの六人。

扉が閉ざされると、緊張が一気に濃くなる。思わず背筋を正す彼らに、エリシアは微笑みを浮かべて言った。

「そんなに硬くならなくてもいいのよ。ここは戦場でも、学び舎の教室でもないわ。……ただ、くつろぎながら聞いてちょうだい」

だが、その柔らかい声の裏に重大な話が隠されていることは誰もが察していた。


やがてレオンが口を開く。

「君たちには伝えておかねばならない。聖女が祈れば、精霊が応える――それを、私たちはこの目で確認した」

リュシアが小さく息をのむ。両手を胸の前で重ね、視線を伏せる。

エリシアが続けるように頷いた。

「さらに、エルフの少女エリスティアの口伝で裏付けが取れたの。勇者と聖女、その二つは表裏一体だと」

部屋に沈黙が落ちた。重みのある言葉が、それぞれの胸に深く刺さっていく。


最初に声を発したのはアマネだった。

「……私が、勇者……なのかな」

不安と戸惑いを含んだ呟き。しかし、その瞳には確かに火が宿っていた。

アルトは即座に言葉を返す。

「勇者が誰であっても、僕は君の隣を歩く。それだけだ」

真っ直ぐにアマネを見つめる瞳。そこには嫉妬も迷いもなかった。

リュシアは小さく微笑む。

「聖女……でも、私は皆と一緒だから。私一人では、きっと何もできません」

その言葉に、ミナが勢いよく頷いた。

「そうそう! ここまで来たら腹を括るしかないでしょ! ね、アマネもリュシアも」

ジークが腕を組み、真剣な声で続ける。

「民衆に見せるとなれば責任重大だな。……でも、俺たちはやるべきだ」

カイルは冷静に口を挟む。

「だからこそ、教会や宰相に悟らせないように動くべきだ。余計な邪魔を入れられれば、儀式そのものが台無しになる」


議論をまとめるように、レオンが一歩前に出る。

「新年の挨拶の場で、突然勇者の儀を行う。それが最善だ。事前に知られれば、必ず妨害される」

エリシアも頷いた。

「それまでは、この部屋の外で口にしてはならないわ。……誰が聞いているかわからないもの」

そして、奥の扉が静かに開き、王が姿を現す。

アルフォンス王――この国の主が、重い声で告げた。

「よいか。これは我が国の未来を示す儀だ。我が国が誇る光を、民に示す時が来る」

誰もがその言葉にうなずいた。


部屋を出る間際、アマネとリュシアがふと立ち止まる。

二人は互いを見つめ合い、そっと手を取り合った。

「二人なら大丈夫。一緒に」

声を揃えて、凛々しく美しく。

その瞬間、六人の心に一つの覚悟が芽生えた。

次に訪れる新年――それは、彼らの物語が大きく動き出す時となるのだ。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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