エルフの口伝—真実の裏付け
王城の会議室は、冬の冷気を遮断する分厚いカーテンに包まれ、暖炉の火が低く揺れていた。
集まったのは王妃エリシア、王子レオン、アルト、エジル、アメリア、そして国王アルフォンス。そこに新たに招かれたのが、銀髪のエルフ少女――エリスティアである。
「では……お聞かせ願おう」
国王の低い声に、エリスティアは静かに頷いた。
「エルフの古伝には、こう記されています。
――“聖女は祈りにより精霊を呼ぶ” と。
けれど、それは頻繁に起こるものではありません。前に現れたのは千年前……それより前の記録は断片的で、周期が一定なのかは解明されていません」
その言葉に、会議室が一瞬静まり返る。
「千年前……」とエジルが呟いた。
「ソレイユ王国が建国されたのも、その頃だったはず」
エリシアの瞳が鋭く光る。
「つまり、初代勇者と聖女の奇跡――それこそが精霊の召喚だった、ということかもしれないわね」
アメリアは眉をひそめ、低く言った。
「もしそうだとすれば……教会が“聖女は己の声を持たぬ者”と定めた伝承は、誤った解釈の可能性がある。いや、意図的に歪められたのかもしれません」
「歴史を疑う必要がある、ということか」
エジルの声は重く響いた。
沈黙が流れた。誰も軽々しく言葉を継げない。
その時、レオンが深く息をつき、場を仕切り直すように口を開いた。
「しかし――今は過去を論じることが目的ではありません。我らが為すべきは、この事実をどう公表するか、です」
アルトが頷いた。
「教会が知っていたのか、あるいは知らなかったのか……判断はできません。ですが、余計な動きを招かないためにも、当日まで秘密裏に進めるべきでしょう」
「その当日とは?」
国王が問いかける。
エリシアがゆるやかに笑みを浮かべた。
「新年の挨拶の場が最もふさわしいでしょう。民衆が一堂に会し、諸侯や教会関係者も揃う。そこでこそ、国として“光”を示すのです」
「だが事前に期日を公表すれば、宰相や教会が動くかもしれぬ」
エジルが懸念を示すと、レオンが頷いた。
「だからこそ、“突然”がいいのです。新年の挨拶の場で、勇者の儀をそのまま執り行う。そうすれば、誰も妨害できない」
沈黙ののち、アルフォンス王が立ち上がった。
「よかろう。これは試練ではない、祝福だ。我らの国が誇る光として、民に示そう」
その言葉に、全員が深く頭を垂れた。
精霊を呼んだ聖女リュシアと、その光に応えた少女アマネ。
彼女たちを中心に据え、国を挙げた“祝福”が、いよいよ動き出そうとしていた。
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