光の証明—王城での精霊呼び
王城の中庭に、静かな風が流れていた。
白亜の石造りの回廊に囲まれた庭園は、手入れの行き届いた花々が咲き誇り、中央には古い聖堂を模した小さな祭壇が置かれている。
その場に立つのは、王妃エリシアとレオン、アルト、学園長エジル・カーネル、そして修道会総長アメリア。
少し離れて、アマネとリュシアが並んでいた。
「ここで確かめましょう」
エリシアの声は澄んでいて、だが空気を張りつめさせる。
「リュシア。あなたが“あの日”森で見せた祈りを……もう一度」
リュシアは小さく息を整え、両手を胸の前で組んだ。
その横顔には不安もあったが、同時に決意の凛々しさが宿っている。
「……はい」
祭壇にひざまずくと、静かに目を閉じる。
響くのは、心からの言葉。
「――どうか。人を守る力を、私に」
その瞬間、柔らかな光が花壇の上にふわりと生まれた。
空気が震え、小さな羽音のようなきらめきが舞い降りる。
淡い金色の精霊が姿を現し、リュシアの祈りに応えるように肩に寄り添った。
「……来た……」
アルトが息を呑み、エジルは眼鏡を押し上げて光景を凝視する。
精霊はリュシアの頬に触れるように飛び回り、祝福の光を散らした。
だが次の瞬間、ふらりと進路を変える。
――アマネの方へ。
「え……?」
皆が驚く中、アマネは無意識に手を差し伸べていた。
精霊はその掌に留まり、まるで懐くように羽を震わせる。
「……今回も来てくれたね」
アマネが無邪気に声をかけると、精霊はキラリと光を強めて応えた。
沈黙が広がる。
誰も言葉を挟めなかった。
最初に声を発したのは、アメリアだった。
「……これは、紛れもない証です。聖女が祈りに応じて精霊を呼んだ……その光が、勇者と共鳴した」
レオンは腕を組み、難しい表情を浮かべる。
「だが、この事実を軽々しく世に広めるべきではない。混乱を招く」
「ええ」
エリシアが頷き、アマネとリュシアを見つめた。
「二人が特別であることは、今ここで確かめられたわ。けれど――その真実を告げる時を、私たちが選ばねばならない」
アルトも続ける。
「そうだな。……勇者の儀がいつ訪れるかは分からない。だからこそ、正しい形で世に示す必要がある」
光を放ち続ける精霊は、まるで二人を包むように舞った。
リュシアはその輝きに微笑み、アマネはただ不思議そうに眺めている。
やがて精霊は風に溶けるように消え、庭園は再び静けさを取り戻した。
「――いつか必ず、この光を国の祝福に変える」
エリシアの声は確信に満ちていた。
そして誰もが胸の奥で同じ思いを抱いた。
これは未来への布石。
勇者と聖女の、確かな証明だった。
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