議論の重み—聖女と精霊
王城の会議室。
大理石の机に並ぶのは、王妃エリシア、第一王子レオン、学園長エジル・カーネル、修道会総長アメリア、そして勇者候補として名を知られるアルト。
前に立つ侍従が報告を終えると、部屋に沈黙が落ちた。
「……聖女リュシアが、精霊を呼んだ」
エジルが低く繰り返す。眼鏡の奥の瞳が、強い光を宿していた。
「事実だとすれば、前例のないことです。古文書にも“聖女と精霊の結びつき”は散見されますが……現実に起きたのは、数百年ぶりでしょう」
「ですが」
アメリアが眉を寄せる。
「不用意に広めれば、教会が黙っていません。聖女は彼らにとって権威そのもの。いかに掟を盾にしてでも、奪い返そうとするでしょう」
「……隠すべきか、示すべきか」
レオンが腕を組み、唸るように言った。
「民は混乱するだろうな。だが、真実を覆い隠すのもまた火種になる」
「兄上のおっしゃる通りです」
アルトが静かに言葉を継ぐ。
「リュシアは確かに精霊を呼びました。僕もこの目で見ています。ならば、証として確かめるべきです。勇者の儀が近いなら尚更」
「……だが」エジルが言いかけたところで、エリシアがすっと立ち上がる。
「結論は明白でしょう」
その声は柔らかいが、誰よりも揺るぎなかった。
「確かめるのです。王城に彼女を招き、改めて精霊を呼んでもらう。それが虚か真か、国として確かめる義務があるわ」
会議室に沈黙が落ち、全員が頷いた。
「……実際に見てからだな」レオンが短く言う。
「民に伝えるか、封じるかはその後に」
エリシアは目を閉じて、静かに結んだ。
「そう。私たちが為すべきは、噂に振り回されることではなく――事実を見極めること」
次なる舞台は、王城の庭園。
聖女の祈りが真実か否か、歴史を揺るがす証明の場が用意されようとしていた。
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