影を裂く精霊の矢
森に静けさが戻ったかと思った、その刹那だった。
木々の枝にとまっていた大コウモリたちが、一斉に羽ばたき散った。ざわめく気配に、仲間たちは思わず構えを取る。
「第二波か……っ」ジークが剣を構え直す。
黒い雲のように、空が揺れた。
――いや、それは雲ではない。
影が翼を広げて、森を覆い尽くすほどの巨影となった。
「……影鷲だ!」カイルが叫ぶ。
漆黒の巨鳥。その翼は広げただけで数メートルを越え、眼は赤黒く輝き、獲物を見つめていた。
森の奥から、影鷲が舞い降りる。羽ばたくたびに、黒い羽根が影の幕を撒き散らし、視界を奪ってくる。
「まずい……!」アルトが剣を掲げ、仲間の前に立つ。
「皆、散開して迎え撃て!」
ジークとミナは前衛として飛び込み、影の幕を斬り払いながら進む。
アマネは直感で仲間の位置を読み取り、刀を閃かせて影鷲の爪を弾いた。
「でかい……でも、負けない!」
その横でリュシアは震えながらも、掌に光を宿す。
「……光よ、矢となって!」
彼女の放った光の矢が、群れの小型魔獣を貫き、仲間を守る。初めての実戦投入――しかし迷いはなかった。
だが影鷲はなおも空を舞い、巨大な影を作り出して森を覆う。
仲間たちが動きを制限される中、その姿を真っ直ぐに見上げていたのは、エリスティアだった。
「……私に任せて」
彼女は静かに呟くと、弓を構えた。
弦にかけた矢先に、淡い緑の光が集まっていく。木々がざわめき、森の精霊たちがその矢に宿る。
「精霊の加護……!」リュシアが思わず声を上げる。
影鷲が急降下してくる。鋭い爪が仲間を狙ったその瞬間――
エリスティアの矢が放たれた。
矢は光の尾を引きながら影の幕を切り裂き、一直線に影鷲の胸を貫いた。
轟音とともに、巨鳥が地に墜ちる。
静寂。
風が、森を吹き抜ける音だけが残った。
「……すごい」アマネが思わず息を呑む。
「これが……エルフの精霊弓」カイルも目を細める。
エリスティアは矢を収めると、静かに仲間へと振り返った。
「私は、エリスティア。隣国からの留学生……そして、森と精霊に生きる者」
その瞳には、揺るぎない誇りが宿っていた。
リュシアが一歩近づき、微笑む。
「助けていただいて……ありがとう。あなたも、一緒に」
彼女の差し出した手を、エリスティアは少し戸惑いながらも握り返した。
――こうして、新たな絆が芽生えた。
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