噂の広がり—希望を灯す六人
討伐から戻って数日後。
学園は、ひとつの話題で持ちきりだった。
「聞いたか? 近郊の村に魔物が出たってやつ」
「うん、しかも討伐したのは勇者候補の班だって!」
「いや、殿下もすごかったらしいけど……なんていうか、全員が見事に噛み合ってたって聞いたぞ」
食堂の席や廊下で、ひそひそ声が飛び交う。
その中心には必ず――アマネ、アルト、ジーク、ミナ、カイル、リュシアの六人の名が並んでいた。
「聖女様が攻撃魔法を撃ったんだって!」
「え、あの聖女様が?」
「祈るだけじゃなくて、仲間を守るために……だろ。すげぇよ」
「いや、一番すごいのは、誰かが目立ったとかじゃなくて、全員で村を守ったことだってさ」
「……勇者とか聖女とか、難しい言葉は分かんねえけどよ。あの六人なら安心できるよな」
自然と議論の焦点は、誰が勇者か、誰が聖女かではなく――「六人の存在そのもの」へと移り始めていた。
一方その頃、職員室でも。
「ふむ……動きの速さも、判断も。もはや一つの軍に匹敵するな」
剣術助教カミルが、腕を組みながら窓の外に目をやる。
保健医セラフィーナが頷いた。
「仲間として互いを信じる、その姿勢が力に結びついている。理想的ですね。勇者や聖女と呼ぶ以前に……もう完成されたチームです」
魔導学助教イレーネは、ワイン片手にくすりと笑った。
「恋も友情も入り混じった青春の力ってやつよ。おかげで見てるこっちまでドキドキするじゃない」
教師たちの評価もまた、六人全体へと向けられていた。
そして、王都でも。
酒場の片隅で、労働帰りの男たちが熱弁する。
「勇者が誰とかは知らんが……」
「いや、あの六人が揃ってりゃ、どんな魔物だって退けられるって聞いたぜ」
「まるで神話の“六人の守り手”だな」
市場の女たちも噂に花を咲かせる。
「聖女様も怖がるどころか、子どもを抱えて守ったんですって」
「その横で、あの小さな少女が魔物を斬ったとか。……夢みたいな話だわ」
人々の口から漏れるのは、畏れよりも希望だった。
中庭。
六人が集まると、自然と周囲から視線が集まった。
そのざわめきを耳にして、ミナが胸を張る。
「やっと皆、分かってきたのね! 私たちが最強だって!」
「おい、調子に乗るな」ジークが苦笑しながらも、どこか誇らしげ。
カイルは冷静に言葉を添えた。
「認められるのは嬉しいけど……その分、責任も大きくなる」
「でも」アマネはにっこり笑った。
「みんなが一緒なら、大丈夫だよ」
「ええ……もう一人じゃない」リュシアが穏やかに頷く。
「皆と共に歩ける」
アルトも仲間を見渡し、静かに言った。
「肩書きなんてどうでもいい。俺たちは、俺たちの力で進むだけだ」
夕陽が差し込み、六人の背中を黄金に染める。
勇者や聖女の名を越えて――人々は、この六人の仲間たちに希望を託し始めていた。
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