胸を張って—仲間の叱咤、勇者と聖女
討伐が終わり、ようやく村に静けさが戻った。
焼け焦げた木々や崩れた柵の向こうで、村人たちは駆け寄ってくる。
「聖女様! あの光の矢に救われました!」
「勇者殿下……! でも、最後にあの魔物を斬ったのは……あの少女では?」
「ありがとう! 俺たちの村を守ってくれて……!」
感謝と驚きが入り混じった声が次々と響く。
村人たちの手がアマネとリュシアの腕を取ろうと伸び、二人は戸惑いながら一歩退いた。
横にいたアルトが、あえて自分を前に出ず、二人を押し出すように一歩引いて笑う。
「今日の立役者は二人だ。胸を張って、受け取るといい」
けれど――。
アマネは慌てて首を振った。
「い、いえ……わたしなんて。勇者だなんてまだ……皆がいたから、ただ、それだけで……」
リュシアも胸元を押さえ、震える声で続ける。
「わ、私も……攻撃なんて怖かったんです。ただ、皆が守ってくれたから……」
二人そろって縮こまる姿に、村人たちは逆に戸惑いを見せた。
――その時。
「ちょっと待った!」
勢いよく声を張ったのはミナだった。
腰に手を当て、眉を釣り上げて二人を睨みつける。
「アンタたちね、すぐ“私なんか”って言うけどさ!」
「それ、仲間に対して失礼だから!」
「え……?」とアマネとリュシアが同時に目を丸くする。
「みんなが信じて背中を預けたから、アンタたちが戦えたんでしょ? だったら“できた”って胸張んなさいよ!」
その言葉に、空気が変わる。
ジークが豪快に笑いながら剣を肩に担いだ。
「ミナの言う通りだ。俺も全力で剣を振れたのは、お前らを信じたからだ」
カイルも頷く。
「分析や戦術だけじゃ足りなかった。……アマネの直感、リュシアの祈り――それが勝利を引き寄せた」
アルトは少し笑って、真っすぐ二人を見る。
「勇者が誰かなんて関係ない。少なくとも今日は、君たちが俺たちを導いた。それだけは事実だ」
仲間たちの言葉に、二人の胸の奥に温かいものが広がった。
アマネは拳を握りしめ、小さく笑う。
「……そっか。わたし、ちゃんと戦えたんだ」
リュシアも静かに頷き、瞳に光を宿す。
「私も……守るだけじゃなく、力を振るえたんだ」
二人が顔を見合わせ、笑みを交わした瞬間――村人たちから自然と拍手が起こった。
夜。
村の広場には火が焚かれ、討伐の祝いとして歌と笑い声が響いていた。
その中で、アマネとリュシアはほんの少し背筋を伸ばし、仲間たちと肩を並べて歩く。
(もう、“私なんか”じゃない。胸を張って……この仲間たちと歩いていくんだ)
二人の決意は、確かに芽生えていた。
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