腐食の巨影—仲間を導く声
地を揺らすほどの咆哮が、夜の森を震わせた。
腐食した巨影が姿を現す。影狼の形をしているが、身体の半分は黒い粘液に覆われ、滴るたびに大地が焼け焦げる。
「村まで行かせるな! ここで仕留めるぞ!」
ガロウが叫び、全員が構えを取った。
巨影が跳躍する。
「来る!」
アルトが剣で受け止め、衝撃に足をめり込ませながらも踏みとどまった。
その隙にジークが横薙ぎの一撃を叩き込むが、腐食した粘液が鎧に飛び散る。
「くっ、こいつ……当たるだけで腐る!」
ミナが即座に治癒薬を塗り込み、ジークの腕を保護する。
「油断しないで! 粘液に触れたら致命傷になるよ!」
カイルが冷静に分析した。
「粘液部分は魔力に反応している。打撃より、光属性の魔法が有効だ」
「……私がやる」
リュシアが一歩前に出る。両手を組み、強く祈るように声を発した。
「【聖なる光矢】!」
光の矢が雨のように降り注ぎ、腐食した部分を焼き払う。黒い粘液が蒸発し、巨影が苦悶の咆哮を上げる。
村人たちの目に涙が滲んだ。
「聖女様が……戦ってくださっている……!」
しかし巨影は暴れ狂い、尾を振り抜いた。
「危ない!」
アマネが仲間の前に飛び出し、刀で尾を受け流す。衝撃が腕に痺れるように響く。
だが、その瞬間――アマネの直感が閃いた。
(ここだ……! 右足の付け根、影と粘液の境目が……核!)
体が自然に動き、声がほとばしる。
「みんな! 右足を狙って!」
アルトとジークが同時に叫んだ。
「任せろ!」
「突破する!」
二人の剣が連携し、巨影の体勢を崩す。
そこにリュシアが全力の祈りを重ねる。
「【聖光槍】!」
矢よりも強く凝縮された光の槍が、巨影の右足を貫き、動きを止めた。
「今だ、アマネ!」
仲間たちの声が重なる。
アマネは刀を握り直し、足元を蹴った。
「――はあああっ!」
閃光のような一閃が、影と粘液の境目を断ち割る。
鈍い咆哮を残し、巨影は崩れ落ち、黒い霧となって夜空へ溶けていった。
静寂。
重い息遣いだけが残る。
「……倒した、のか?」
ジークが大剣を支えながら呟く。
カイルが周囲を見回し、頷いた。
「もう、反応はない。完全に消滅した」
次の瞬間、村人たちが歓声を上げた。
「勇者殿下だ!」「いや、あの少女の刀だ……!」
「聖女様の光に救われた!」
噂と評価が入り混じる声が渦を巻く。
アルトはその中で、ちらりとアマネを見やった。
その表情に嫉妬はなく、ただ静かな笑み。
(……やっぱり。アマネが……勇者なのかもしれないな)
リュシアは肩で息をしながら、隣のアマネに微笑んだ。
「一緒に戦えて……よかった」
「うん。リュシアがいたから、勝てたんだよ」
二人は小さく笑い合った。
こうして――勇者と聖女の“共闘”は、村人たちの記憶に深く刻まれた。
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