成長の実感—力を重ねる二人
秋の風が涼しく吹き抜ける学園演習場。
空は澄み、木々の葉は赤や金に色づき始めていた。広い場内に集まった学生たちの視線が、一人の少女に集まっていた。
「アマネ、構えて」
対面するのはカイル。真剣な表情で剣を掲げる。
去年までは守られる立場でしかなかった少女が、今は彼の目を真正面から見据えていた。
「……うん、いくよ!」
アマネは踏み込み、一気に距離を詰める。
その動きは、かつての「頼りなさ」ではなかった。
コルネリア戦で、無意識のうちに体が導かれたあの一閃――その感覚を、今は自分の意思で再現しようとしている。
剣と剣が打ち合い、甲高い音が響く。
アマネの剣筋はぎこちなさを消し、流れるように繋がっていた。
カイルの防御をかすめるたび、生徒たちがざわめく。
「今の見たか……? すげぇ速さだった」
「いやでも、勇者はアルト殿下じゃ――」
「でもあの一撃、本物みたいだったぞ……」
観客のざわめきに、カイルも内心で驚いていた。
(……あの時の本能の剣。もう、ただの偶然じゃない。自分の力にしようとしている……)
「そこまで!」
カミル助教の澄んだ声が響き、模擬戦は中断された。
アマネは肩で息をしながら剣を下ろす。
カイルの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「……すごい、アマネ。本当に成長したね」
アマネは頬を赤らめ、視線を逸らす。
「まだまだ、全然だよ……でも、ちょっとは皆に近づけたかな」
その言葉に、ガロウ教官が大きく笑った。
「はっはっは! 近づくどころか、一歩踏み込んでたぞ! だが、まだ甘ぇ! もっと打ち込め! ……だがな、もう“守られるだけの剣”じゃねぇことは確かだ!」
周囲にどよめきが走る。
その声は、もはや冗談や囁きではなく、確かな認識へと変わりつつあった。
「アマネ……」
リュシアがそっと近づき、微笑む。
「今の剣……光って見えました。あなたの心そのものが、形になったみたいに」
「えっ、そ、そんなことないよ!?」
アマネは慌てて首を振るが、頬がほんのり赤く染まっていた。
アルトも隣で笑みを浮かべる。
「リュシアの言う通りだ。俺も目を奪われた。……勇者が誰かは分からないけど、アマネの剣はもう、誰にも負けてない」
その言葉に、生徒たちの視線がさらに集まる。
誇りでもなく、傲慢でもなく――ただ仲間を守ろうとする真っ直ぐな力。
それが彼女の成長の証だった。
夕陽に照らされながら、アマネは胸の奥で小さくつぶやいた。
(あの時の一閃を、絶対に自分のものにする……みんなを守れる私でありたいから)
秋の空に、その決意は静かに溶けていった。
お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。