自己紹介ウィーク①—アマネ
今日の午後は「自己紹介を兼ねた小発表」がある。
教師の提案で、学園生活の一環として全員が順に話すことになったのだ。
内容は「出身や将来の希望」。
「……出身? 将来?」アマネは小声でつぶやく。
「なんか、悪意を感じる課題だよね?」ミナが口を尖らせる。
「貴族は家の威光を言えば済むし、庶民は肩身が狭くなるって構図じゃん」
アマネは思わず黙り込む。けれど、すぐにミナがぱっと笑った。
「でもさ! そんなの気にしなくていいよ。うちらは自然体でいこう!」
「……自然体?」
「そう。効率的に言えば、嘘つくより自分のままのほうが楽だし、長続きする!」
その言葉に、アマネの胸のつかえが少しだけ軽くなった。
⸻
春の陽差しが窓から差し込む教室で、発表が始まった。
緊張で胸が高鳴る。けれど、前に立った瞬間、不思議と声は震えなかった。
「私は……アマネといいます。王都から少し離れた場所で育ちました。特別な家はなくて、でも――」
一瞬、庵のことをどう説明しようか迷った。
ルシアンの顔、アサヒの背中、薪を割る音。全部を語るわけにはいかない。
「でも、人を支えることが好きです。これからも……そうありたいと思っています」
言葉にすると、少し照れくさかった。けれど、正直な気持ちだった。
教室は短い沈黙のあと、いくつかの拍手で満たされた。
貴族の子女たちの冷ややかな視線もあったが、前列でミナが大きく手を叩いてくれているのが見えた。
⸻
授業の終わり、廊下でリュシアが静かに歩み寄ってきた。
金の髪を編み込みにまとめた姿は、相変わらず凛としている。
「アマネさん」
「えっ……聖女さま?」
リュシアは小さく首を振り、柔らかく言った。
「リュシアでいいですよ。ここは学園であり、同い年なのですから」
「……リュシアさん」
リュシアは微笑み、目を見て言葉を紡いだ。
「今日の言葉、とても素敵でした」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
高嶺の花のように遠いと思っていた聖女が、今は少しだけ近くに感じられた。
窓の外では、花盛りの木々が風に揺れていた。
その花びらの一枚が、アマネの心にもそっと落ちたようだった。
お読みいただきありがとうございます。自己紹介ウィーク回です。不定期・毎日目標で続けます。