秋の始まり—新しい絆の道具
秋の風が高い空を渡り抜け、学園の木々を赤や金に染め始めていた。
庵での合宿から戻ったアマネたちは、心に一つの使命を抱えていた。
――庵で完成させた通信機を、慎重に、そして確実に広げていくこと。
学園長への贈呈
昼休み。仲間たちはエジル学園長の部屋を訪れた。
ミナが木箱を抱えて胸を張る。
「完成しました! みんなで考えて作った通信機です」
エジルは静かに器具を手に取り、目を細める。
「……声を遠くまで届ける道具、か。魔石の反応もない……なるほど」
ジークが一歩前に出て説明し、アマネは真っ直ぐに頷いた。
「仲間をつなぐために作ったんです。これがあれば、もっと早く助け合えるはずだから」
「……素晴らしい発想だ。だが同時に、これは戦にも使える危うさを持っている」
リュシアも「レオン殿下も同じことを言っておられました」
エジルは真剣な声で告げた後、ふっと笑みを浮かべた。
「君たちが慎重に選んでいること、それ自体がすでに“力”になっている。私も協力しよう」
街での再会 ―クラリスへ
数日後。休日を利用して訪れた街で、クラリスと再会した。
卒業して数か月、すでに公爵家の跡継ぎとして忙しく立ち回っているらしい。
「あなたたち! 元気そうね」
相変わらずの華やかさに、通りすがりの人々も振り返る。
ミナが得意げに通信機を差し出すと、クラリスは目を丸くしてから声を上げた。
「まあ! 本当に、こんな小さな器具で? ……ふふ、面白いじゃない」
アマネに向き直り、にこりと笑う。
「これであなたとも、ずっと繋がっていられるのね。奏の会は、永久に不滅よ」
「うん!」
アマネも嬉しそうに笑い返した。その無邪気な笑顔に、クラリスは「やっぱり可愛いわね」と小声で呟く。
修道会総長 ―アメリアへ
さらにその後。修道会総長アメリアを訪ね、正式に通信機を渡した。
アメリアは慎重に受け取り、目を細める。
「……人を繋ぐ道具。掟や形式よりも、心を通わせる力の方が、どれほど大事か……君たちはよく分かっている」
リュシアが少し緊張しながら口を開く。
「アメリア様、これがあれば……私も、もっと皆の声を聞けます」
「ええ。声を持たぬ聖女、などという古い言葉は、もう捨てなさい」
アメリアは柔らかく笑みを浮かべ、そっとリュシアの手を包んだ。
「君の声で祈り、君の声で繋がりなさい。それが、これからの聖女の在り方でしょう」
学園長、街の公爵令嬢、修道会総長――三人の協力者に通信機が渡されたことで、仲間たちは確かな手応えを覚えていた。
秋の澄んだ空の下、アマネは仲間たちと笑い合う。
(これで……もっと広く、もっと強く、繋がっていける)
その胸の鼓動は、季節の移ろいと共に確かに未来へと進んでいた。
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