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祠に眠る小箱—もうひとつの誕生日

庵から少し奥にある古びた祠。

森に飲み込まれるようにひっそりと佇むその場所は、アマネが幼いころ拾われた――運命の地だった。

「アマネ……行くか?」

ルシアンが静かに問いかける。

アマネは一瞬迷ったが、やがて笑顔を浮かべて頷いた。

「うん。私が拾われた場所……見てみたい」

アサヒも柔らかな眼差しで寄り添う。

「あなたが選ぶなら、私たちはそばにいるわ」

そうして仲間たちも静かに後をついていった。

ジークもミナも、カイルもリュシアも、何も言わずにアマネを見守っていた。

そのとき――。

「わふっ!」

カグヤが祠の裏を掘り返し、土埃を上げながら小さな木箱を咥えて戻ってきた。

「え……?」

アマネが受け取ると、箱は古びて、けれど丁寧に作られていた。

蓋を開けると、中には色褪せた紙片。

そこには見慣れた筆跡で、こう記されていた。

――「天音アマネ 10月10日 誕生」

「……っ」

アマネの目が大きく見開かれた。

震える指先で紙を持ち上げ、声が掠れる。

「これ……私の……本当の誕生日……?」

ルシアンとアサヒも息を呑む。

彼らの知る「拾った日」ではなく、確かに記された“生まれた日”。

沈黙を破ったのはリュシアだった。

紙片をのぞき込み、瞳を揺らす。

「……同じ、です。わたしも……10月10日」

「え……?」

アマネが振り返ると、リュシアは少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「私たち、同じ日に生まれたんです……偶然、じゃない気がします」

アマネの瞳から、涙が零れ落ちた。

けれどその顔は笑顔で輝いていた。

「……じゃあ! 私の誕生日はお父さんに助けてもらった9月21日と10月10日の二つあるんだね!」

仲間たちが一斉に笑顔になる。

ミナが「なんかずるい!」と茶化し、ジークが「神様の思し召しかもな」と真顔で言う。

カイルも「偶然にしてはできすぎてる」と頷き、アルトは小さく微笑んで「意味があるのかもしれないな」と呟いた。

エリシアは祠の前で手を組み、深い眼差しで子どもたちを見つめる。

そして呟くように

「まだ断定はできないけれど……アマネが勇者なのかもしれないわね。

そしてリュシアも、“聖女候補”ではなく本物の……」

言葉を途中で切り、柔らかな笑みを浮かべた。

レオンも隣で小さく頷き、落ち着いた声で続ける。

「確証のないことを広めるわけにはいかない。ただ……この事実は、いずれ勇者の儀を解き明かす手がかりになるだろう」

アマネは、ただ嬉しそうにリュシアの手をぎゅっと握り、

「ねえ、これからは一緒に祝おうね!」と笑った。

リュシアも涙を浮かべながら、力強く頷く。

「……うん。アマネ。双子みたいだね!」

――その夜、庵は祝福の灯りに包まれた。

仲間と、大人たちと、そして姉妹のように並んだ二人の姿。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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