繋がる声—絆と警鐘
夕餉がひと段落し、庵の囲炉裏にはまだ柔らかな火が灯っていた。
皆の手には、それぞれ新しく渡された小さな通信機。
「ほんとに……これで、どこにいても話せるんだね」
リュシアは掌の上で機器を見つめ、小さな声で呟いた。
かつて孤独の中に囚われていた少女の瞳が、今は不安よりも希望を映している。
「これで、リュシアが寮にいても――いや、教会に戻っても声を届けられる」
カイルの言葉に、リュシアの表情がぱっと和らぐ。
「……ありがとう。カイルが、いてくれるから」
不意の真っ直ぐな返答に、カイルは耳まで赤く染めた。
◇
「へぇ、こいつは便利そうだな!」
ジークは通信機を回して観察し、ミナに手渡す。
「でもね、使いすぎたら夜更かしの原因になるんだから」
ミナが肘でつつくと、ジークは「お、おう」と気まずそうに頷く。
2人のやり取りに周囲から温かな笑い声が広がった。
その笑いの輪の中で、アマネはふと顔を上げる。
「みんなが繋がっていられるなら……きっと、もう一人ぼっちになることはないんだ」
その言葉にアルトが静かに頷いた。
「そうだな。誰かの声が届くって、それだけで人は強くなれる」
◇
「……だが」
低い声が囲炉裏の炎を震わせた。
レオンが通信機を手に取り、真剣な眼差しを向ける。
「これは剣よりも恐ろしいものになるかもしれない」
その場に一瞬、緊張が走った。
「もし他国に渡れば、軍事利用される。敵軍同士が即座に連絡を取り合えるようになれば……国の均衡は容易く崩れるだろう」
皆が言葉を失う中、アマネが思わず口を開いた。
「でも……だからって、怖がって使わないのは違うよね?」
レオンの瞳が一瞬だけ和らぐ。
「……ああ。だからこそ、選ぶ相手を誤ってはいけない。これは“仲間を繋ぐための声”に留めなければならない」
「わかった!」
アマネは力強く頷いた。
それは軽い返事ではなく、きちんと意味を理解した上での同意だった。
◇
「……なるほどな。怖ぇけど、頼もしい武器でもあるってわけか」
ジークが呟くと、ミナが微笑んで補足する。
「声を武器にするか、絆にするか……私たち次第ってことよ」
リュシアは両手で通信機を抱きしめるように持ちながら、小さく言った。
「だったら私は……祈りの声と同じように、これも守りたい」
その言葉に、アサヒとエリシアが同時に頷いた。
「ええ、それでいいのよ」
「声は、人を縛るためではなく、人を繋ぐためにある」
◇
夜は更け、囲炉裏の火も小さくなる。
だがその夜、庵の仲間たちの間には――
確かに“声で繋がる新たな絆”が芽生えていた。
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