夏休みの約束—庵へ集うために
学園の鐘が、長い一学期の終わりを告げた。
大講堂の前庭には、解放感に包まれた生徒たちの笑い声が広がっている。修道院での戦いを経てなお、ここには学び舎らしい穏やかな空気が戻っていた。
「……ようやく終わったな」
ジークが大きく伸びをすると、ミナが横からくすっと笑った。
「でもジーク、この前だって訓練場で汗だくだったじゃない。全然休んでなかったでしょ?」
「お、おう……まあ、体を鈍らせたら鈍っちまうからな」
その言葉に周囲の生徒から「さすがカップル」「お似合い!」と冷やかしの声が飛ぶ。ミナが頬を赤くして「ちょ、やめてよ!」と返すと、ジークは耳まで真っ赤になり「うるせえ!」と吠えた。
◇
一方その隣で、リュシアは小さく笑顔を浮かべていた。
去年の彼女なら、ただ静かに下を向いていたかもしれない。
今は違う――柔らかな笑みを見せ、冗談を受け止める。
その様子に、カイルはふと視線を止めてしまった。
「……」
目が合った瞬間、慌てて視線を逸らす。
「ちょっとカイル?」
すかさずミナがにやりと笑って覗き込んでくる。
「な、なんだよ」
「分かりやすいわね」
ジークまで腕を組んでうんうんと頷き、カイルは「ち、違う!」と否定するが、耳まで赤く染まっていた。
◇
そんな彼らを少し離れた場所から見ていたアルトは、柔らかく息をついた。
(……こうして笑い合っている。それが一番大事なんだ)
隣に立つアマネの横顔が、自然と目に入る。
無邪気に友人をからかい、時に真剣に仲間を気遣う。
勇者かどうか、聖女かどうか――そんな肩書きよりも、この笑顔を守りたい。
そんな想いが胸の奥に静かに積もっていく。
◇
「さて!」
アマネが両手を大きく広げて言った。
「今年も、みんなで庵に行こうよ! 去年みたいに、楽しくて、勉強になる夏休みに!」
その声は真っ直ぐで、どこまでも明るかった。
仲間たちは顔を見合わせ、笑顔を返す。
ジークは「今年は負けねぇぞ」と気合を入れ、ミナは「料理ももっと覚えてみせる!」と拳を握る。
リュシアは「また、皆と一緒に笑える夏にしたい」と静かに言葉を紡ぎ、カイルは「僕も……協力するよ」と頷いた。
アルトもまた、穏やかな眼差しでアマネを見つめながら、「ああ。楽しみにしてる」と短く告げる。
◇
夕陽に染まる学園の中庭。
一年ぶりの約束が、自然と結ばれていく。
去年はぎこちなさが目立った仲間の輪も、今は温かく、確かな絆で繋がっていた。
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