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騎士の誓い—父と娘と未来

カストレード伯爵邸。

夕暮れの光が差し込む応接間には、上等な木材で作られた長机と、色鮮やかな絨毯。

だがそこに漂う空気は、華美ではなくむしろ実務的で力強かった。

それは主である ミケル・カストレード伯爵 の人柄そのものを表していた。

「よく来たな、ヴァルハルトの坊主」

豪放な笑顔で迎え入れたミケルの声に、ジークは一歩踏み出し深く頭を下げた。

その背筋は緊張でこわばっている。隣に座るミナの小さな手が、そっと袖をつかんだ。

「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。……僕は、ジーク・フォン・ヴァルハルト。ミナを――」

「名乗りは要らん」

言葉を遮るように、ミケルの声が低く響いた。

にこやかな表情の奥、その瞳には父としての鋭さが宿っていた。

「お前の剣の腕は知っている。戦場での働きも耳に入っておる。

だが、娘を任せるに剣一本だけでは足りん。……お前は何を背負い、何を残すつもりだ?」

鋭い問いに、ジークは息を呑む。

横でミナが「お父様……」と小さく声を上げたが、ジークは首を振ってそれを制した。

真っ直ぐにミケルを見据え、言葉を絞り出す。

「僕は……守るだけじゃ、足りないと思っています」

一瞬の沈黙。

だが次の瞬間、ジークの瞳は強い光を帯びた。

「人は、戦えば傷つく。魔物を討てても、また別の場所で誰かが泣いている。

だから――皆が互いに助け合える仕組みが必要なんです。

身分に関係なく集まり、依頼を受け、魔物を討伐し、人々を守る場。

僕はそれを……『ギルド』として作りたい!」

言葉が空気を震わせた。

ミナは思わず胸を押さえ、目を潤ませる。

ジークがただ剣を振るうだけでなく、未来を見据えている――それが嬉しかった。

対するミケルは、目を細めてジークをじっと見つめた。

やがて、腹の底から響くような笑い声を上げる。

「はははっ! なるほど……やるじゃないか坊主!」

「……え?」

「貴族も庶民も関係なく人を繋ぐ場、か。

もしそれが形になれば……人も金も動く! 新しい市場が生まれるぞ!」

商人としての血が騒ぐのだろう。

ミケルの瞳は、父親のそれから一転、獲物を見つけた商売人の鋭さを宿していた。

「なぁ、ジーク。お前のその構想……俺と一緒にやらんか?」

「えっ……!」

「はぁ!? お父様、何言ってるの!」

ミナが真っ赤になって声を上げるが、ミケルは構わずニヤリと笑う。

「俺は商売で多くの町を見てきた。市民と貴族を繋ぐ仕組み……それを形にできるなら、この国の未来も変わる。

そして何より……絶対儲かる!」

「……お父様ぁ!」

娘の抗議もどこ吹く風。

だがジークは真剣な眼差しで、ミケルの差し伸べた手を見つめていた。

「父としては、お前をまだ試したい気持ちもある」

「……」

「だが商売人としては、もう賭けたくなった。……娘を泣かせるなよ、ジーク」

ジークは深く頭を下げ、その手を固く握り返した。

その瞬間、応接間の空気が一変する。

親子の対峙から、未来を共に築く仲間の契約へと変わったのだ。

「はい。必ず――ミナを、皆を守れる男になります」

言葉に嘘はなかった。

それを隣で聞いていたミナは、堪えきれずにジークへと飛びついた。

「……最高! ジーク、やっぱり大好き!」

「ちょ、ミナ!? 今は……!」

「いいの! だって、こんなにカッコいいんだもの!」

父の前で抱きつかれ、ジークは顔を真っ赤にして慌てる。

だがミケルは笑って腕を組み、ゆったりと頷いた。

「いい。……娘を託すだけじゃない。俺たちはこれから、一緒に未来を作る仲間だ」

夕暮れの光が窓から差し込み、三人を照らしていた。

それは新しい家族の絆であり、同時に未来の大きな一歩でもあった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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