花盛り ―効率は正義!
工房前の中庭は、花盛りの五月らしく色とりどりの花で埋め尽くされていた。
風が吹くたび、甘い香りと共に花びらがひらひらと舞う。
その真ん中で、ミナが両手を腰に当て、にんまり笑っていた。
「見よ、この発明! 名付けて《自動薪割りくん一号》!」
胸を張って指差す先には、奇妙な装置。
木の台座に金属の歯車とレバーが取り付けられ、魔石が光っている。
「効率は正義! 斧を振り下ろすなんて時代遅れ! これさえあれば、薪が勝手に割れるのだ!」
周囲の生徒たちがどよめく。
アマネは半歩下がり、小声でつぶやいた。
「……なんだか嫌な予感がする」
「いけー!」
ミナがレバーを引いた瞬間、金属音がガシャリと鳴り、薪が台の上で上下に挟まれた。
バキンッ、と音を立てて綺麗に割れる。
「おおっ!」と周囲から歓声。
ミナはどや顔で胸を張った。
「ね? 効率的でしょ?」
……が、その直後。
「ギギ……ギギギ……」
歯車が異音を立て、台がぶるぶる震える。
「え、ちょ、待って」アマネが慌てて声をかける。
「ミナ、それ――」
ドガンッ!
小さな爆発音と共に、煙がもくもくと吹き出した。
慌ててアマネが水魔法で火花を押さえ込むと、煙の中からミナがけろっと顔を出した。
「はっはっは! 失敗は成功の母!」
「……もう少し反省した方がいいと思う」アマネは額に手を当てる。
そこにジークが通りかかり、目を丸くした。
「お前……また変なもん作ってんのか」
「変じゃない! 便利なの!」
「どう見ても危なっかしい」
「ちっちっち、発明とは危うさと隣り合わせでこそ進化するのだよ」
「屁理屈だろ、それ」
口げんかする二人に、アマネは思わず吹き出した。
「……なんか、元気になるね。ミナって」
ミナは胸を張り、指を突きつける。
「そう! 私は元気の化身! 効率は正義、笑顔は最強!」
ジークが呆れた顔で肩をすくめ、アマネは笑いをこらえきれず、頬が緩んだ。
――庵の静かな日々とは違うけれど。
この賑やかさも、悪くない。
花びらが風に舞う中、ミナの声が響いた。
「さーて、次は何を作ろうかな!」
アマネの胸に、ほんの少しだけ温かいものが芽生えていた。
読了感謝!このあたりから人物の関係が少しずつ動きます。不定期・毎日目標で更新します。