先生たちの評価—謙虚を越えて
午後の特別講義。
勇者候補たちが実戦演習を終えると、観覧席にいた教師陣の間で静かな囁きが広がった。
「見たかね。最後の判断……勇者候補の殿下ではなく、あの少女が前へ出た」
剣術助教カミルが、腕を組みながら淡々と呟く。
「しかも、迷いなく仲間に合図を飛ばしていた。あれは計算よりも信頼から来る動きだわ」
保健医セラフィーナが頷く。
魔導学助教のイレーネは、にやりと唇を吊り上げる。
「勇者かどうかなんて関係ないわね。あの子は“女の子”としても輝いてる。……あれは恋を知った顔よ」
思わず赤くなるアルトを横目に、ジークが小さく吹き出した。
◇
訓練を終え、汗を拭いながらアマネは控えめに仲間へ振り返った。
「えっと……私、また出しゃばっちゃったかな」
「バーカ」
ジークが即答する。
「前までは少し謙虚が過ぎて卑屈に見えてたからな。
でも今は、ちゃんと“自分の声”で動いてる。それがいいんだよ」
その言葉に、アマネは一瞬目を丸くしたが、やがて照れたように笑った。
「……そっか。ありがとう、ジーク」
◇
教師陣の視線が彼女に注がれる。
セラフィーナは小さく呟いた。
「自分を卑下せず、でも驕らない。……あの子の在り方こそ、人を導くのかもしれない」
イレーネが茶目っ気たっぷりに笑う。
「ねえ、これからますます目が離せないわよ。あの子、男の子たちの心まで掴むんだから」
アルトとカイルが同時に咳払いをして、周囲はどっと笑いに包まれる。
◇
夕暮れの廊下で、アマネは窓の外の光を見つめていた。
(私……前よりずっと、胸を張れてる気がする)
それは卑屈な少女の呟きではなく、仲間と共に歩む“勇者の芽”を持った少女の決意だった。
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