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母のまなざし、姉の決意

薄暗い病室。

王城の一角にある静養の間は、余計な装飾を排した静かな空気に満ちていた。

ベッドに横たわるのは、病に伏すリュシアの母――イザベラ。

痩せた頬にかすかな血色が戻りつつあり、その傍らにはマリア、背後にはエリシアとアメリアが控えていた。

「姉上……」

マリアの声は震えていた。厳格な修道院長としての顔はなく、一人の妹としての面差しだった。

イザベラはゆるやかに目を開ける。

「マリア……来てくれたのね」

弱々しい声ながら、その瞳は澄み切っていた。

マリアは思わず言葉を詰まらせる。

「私は……ずっと、掟に従うことが正しいと信じてきました。

けれど、リュシアの笑顔を見てしまった今……どうすればよいのか、分からなくなったのです」

イザベラはかすかに微笑む。

「リュシアは、聖女である前に、私の娘であり――ひとりの女の子よ」

「……女の子」

「そう。掟に縛られ、声を失った姿は、あの子の本当の姿じゃない。

あの子は笑い、泣き、悩み……それでも前に進もうとする。だから強いの」

マリアの目に涙がにじむ。

「私は……あの子を追い詰めていたのですね」

「違うわ。あなたは守ろうとしていた。それだけ」

イザベラはそっと妹の手を握る。

「でも、もういいの。リュシアは自分の声を持って、祈れる子だから」

背後で見守っていたエリシアが口を開いた。

「その祈りこそが、これから王国を導く光になります。掟ではなく、心の声で」

アメリアも頷く。

「私たちはそれを支えるだけです。形式ではなく、彼女の歩みに寄り添うことが、今の務めでしょう」

マリアは震える手でイザベラの手を握り返した。

「……姉上。私も、リュシアの笑顔を守ります。掟ではなく、伯母として」

イザベラの目尻に涙が浮かんだ。

「ありがとう、マリア……」

その場に、静かな祈りのような温かさが満ちていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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