揺れる信仰、支える絆
王城の奥、静謐な応接室。
豪奢ではなく、あくまで落ち着いた雰囲気の中、三人の女性が向かい合っていた。
王妃エリシア、修道会総長アメリア、そして修道院長マリア。
「修道院でのこと、そして学園でのこと――リュシアの変化について、率直に伺いたいわ」
エリシアが切り出す。視線は柔らかいが、その奥には確かな意志があった。
アメリアが口を開いた。
「掟に従わせるのではなく、彼女は己の言葉を持ち始めました。それをどう見るかが、今問われています」
マリアは一瞬言葉を失った。
「……本来、聖女は己の声を持たぬ者。祈りとは、ただ神に捧げる形式であったはず。
だが……あの子の瞳を見てしまった今、それを否定できない」
エリシアは静かに頷き、重ねる。
「リュシアは“聖女”である前に、一人の女の子よ。その心を持って祈るからこそ、人のために光を呼べる」
アメリアも続ける。
「実際、彼女の祈りは以前より強く、澄んでいます。形式をなぞるのではなく、自分の言葉で祈った時にこそ、より大きな力が宿っている」
マリアの肩が震えた。
沈黙ののち、かすかな声が漏れる。
「……掟に従わせることだけが正しいと思っていた。けれど……伯母として、私はあの子の笑顔を守りたい」
その言葉に、エリシアとアメリアは穏やかな笑みを交わす。
「では、もう一人。彼女の母――イザベラにも会わせましょう」
エリシアの提案に、マリアは驚きの色を浮かべた。
「姉上に……? あの病の身で」
「だからこそです。リュシアが“女の子”であることを、母だけが伝えられるのですから」
応接室を後にしたマリアは、深い吐息をこぼした。
(掟を守ることが全てではない……あの子を、そして姉を守ることもまた、私の務めなのだ)
胸の奥に、新たな決意が芽生えていた。
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