奏の会は永久に不滅よ
学園の講堂での卒業式が終わり、夕暮れの光が西の窓から差し込んでいた。
その余韻を抱えながら、奏の会の面々は談話室に集まっていた。
しんと静まり返った空気の中で、誰もが言葉を選びあぐねている。
主役であるクラリスが、今日限りで学園を去るのだから。
「……卒業、なんだね」
アマネがぽつりと漏らす。
「ええ、そうよ」
クラリスは微笑みながらも、どこか毅然とした響きを声に宿す。
「でもね、奏の会は今日で終わりじゃないわ。永久に不滅よ」
その言葉に、胸をつかれたように皆の表情が動いた。
冗談ではなく、本気の言葉だった。
クラリスの瞳には確かな炎が燃えていた。
ジークが腕を組んで唸る。
「そう言ってもらえると……俺たちも腹が据わるな」
「そうですね」
カイルも頷く。
「役割は変わっても、会の理念は残ります」
◇
だが、その流れに一人だけ複雑な影を落とす者がいた。
ユリウスだ。
彼は拳を膝の上で握りしめ、迷いを飲み込むように息を吐いた。
「……僕、黙っていたことがある」
その声に全員が振り向く。
ユリウスは一瞬、クラリスを見てから決意したように続けた。
「父上に――“アマネを監視せよ”と命じられていたんだ」
「監視……?」
アルトが眉を寄せる。
ユリウスは苦しげに唇を噛んだ。
「父は言っていた。“あの娘は予言の存在。災厄か、救いか、その行く末を見極めろ”って。
……だから僕は最初、君を警戒していた」
その告白に、一瞬場が張り詰める。
だが、アマネは驚いたように目を瞬き、次に小さく笑った。
「そうだったんだ。でも……ユリウスは今、私の仲間でしょ?」
その一言に、ユリウスの胸にずしりと響くものがあった。
予言でも命令でもない。
ただ“仲間”と呼んでくれる、その無垢な笑顔。
◇
クラリスがそっと歩み寄り、ユリウスの肩に手を置く。
「ユリウス。学園のことはあなたに任せるわ」
「僕に……任せる?」
「ええ。アマネのそばにいて、支えてちょうだい。
父親の言葉に従うんじゃなくて、あなた自身の意志で」
その声は甘やかでありながら、命じるような強さを持っていた。
ユリウスの心は激しく揺さぶられた。
惚れている相手に託された願い。
父の命令よりも、ずっと大切にしたい言葉。
「……僕は……クラリス、君の言葉を選ぶよ」
決意を込めてそう言った瞬間、クラリスの表情がふっと和らぐ。
「いい子ね。安心したわ」
◇
談話室の空気は穏やかに戻っていく。
だが、ユリウスの心には熱い火が灯っていた。
――僕が守る。
――クラリスの想いも、アマネたちの未来も。
卒業生の背を見送るはずの夜に、ユリウスは初めて“学園に残る者”としての自覚を得ていた。
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