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奏の会は永久に不滅よ

学園の講堂での卒業式が終わり、夕暮れの光が西の窓から差し込んでいた。

その余韻を抱えながら、奏の会の面々は談話室に集まっていた。

しんと静まり返った空気の中で、誰もが言葉を選びあぐねている。

主役であるクラリスが、今日限りで学園を去るのだから。

「……卒業、なんだね」

アマネがぽつりと漏らす。

「ええ、そうよ」

クラリスは微笑みながらも、どこか毅然とした響きを声に宿す。

「でもね、奏の会は今日で終わりじゃないわ。永久に不滅よ」

その言葉に、胸をつかれたように皆の表情が動いた。

冗談ではなく、本気の言葉だった。

クラリスの瞳には確かな炎が燃えていた。

ジークが腕を組んで唸る。

「そう言ってもらえると……俺たちも腹が据わるな」

「そうですね」

カイルも頷く。

「役割は変わっても、会の理念は残ります」

だが、その流れに一人だけ複雑な影を落とす者がいた。

ユリウスだ。

彼は拳を膝の上で握りしめ、迷いを飲み込むように息を吐いた。

「……僕、黙っていたことがある」

その声に全員が振り向く。

ユリウスは一瞬、クラリスを見てから決意したように続けた。

「父上に――“アマネを監視せよ”と命じられていたんだ」

「監視……?」

アルトが眉を寄せる。

ユリウスは苦しげに唇を噛んだ。

「父は言っていた。“あの娘は予言の存在。災厄か、救いか、その行く末を見極めろ”って。

……だから僕は最初、君を警戒していた」

その告白に、一瞬場が張り詰める。

だが、アマネは驚いたように目を瞬き、次に小さく笑った。

「そうだったんだ。でも……ユリウスは今、私の仲間でしょ?」

その一言に、ユリウスの胸にずしりと響くものがあった。

予言でも命令でもない。

ただ“仲間”と呼んでくれる、その無垢な笑顔。

クラリスがそっと歩み寄り、ユリウスの肩に手を置く。

「ユリウス。学園のことはあなたに任せるわ」

「僕に……任せる?」

「ええ。アマネのそばにいて、支えてちょうだい。

父親の言葉に従うんじゃなくて、あなた自身の意志で」

その声は甘やかでありながら、命じるような強さを持っていた。

ユリウスの心は激しく揺さぶられた。

惚れている相手に託された願い。

父の命令よりも、ずっと大切にしたい言葉。

「……僕は……クラリス、君の言葉を選ぶよ」

決意を込めてそう言った瞬間、クラリスの表情がふっと和らぐ。

「いい子ね。安心したわ」

談話室の空気は穏やかに戻っていく。

だが、ユリウスの心には熱い火が灯っていた。

――僕が守る。

――クラリスの想いも、アマネたちの未来も。

卒業生の背を見送るはずの夜に、ユリウスは初めて“学園に残る者”としての自覚を得ていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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