激突—救えぬ祈り、切るべき核
広場の中心、黒い聖光をまとったコルネリアが咆哮した。
その声は人間のものとは思えぬほど低く、耳を裂く。
背から伸びた黒翼が大気を震わせ、影が群衆を覆う。
「来るぞ!」
ジークが大剣を構え、地を蹴った。
巨躯の悪魔と化した彼女へ真っ向から飛び込み、重い一撃を振り下ろす。
――ギィンッ!
剣と黒光が激しく衝突。
火花が散り、地面に衝撃波が走った。
「ぐっ……! 押し負ける……だと!」
ジークの力をもってしても、黒聖女の膂力はそれを凌駕していた。
◇
「防御を厚くするわ!」
ミナが道具を展開し、歪む空間を制御する。
「……でも、攻撃までは抑えきれない!」
「なら、俺が!」
アルトが剣を抜き放つ。
勇者の名を背負う男の刃が、黒光を切り裂こうと閃いた。
「――はああああっ!」
鋭い一撃。
人々の視線はその瞬間、すべて彼に集まった。
「勇者だ!」
「第二王子殿下が……!」
だが――。
「……切れない……!」
アルトの剣は、黒聖女の核へと届いたはずだった。
しかし黒光は吸い込むようにそれを受け止め、まるで拒絶するかのように弾き返した。
「嘘だろ……!」
彼の額に汗が浮かぶ。
◇
「まだだ!」
ジークが支え、ミナが拘束を補強し、カイルが祈りの式を解析して叫ぶ。
「弱らせるんだ! 核を露わにしなければ……切れない!」
「なら俺が……!」
アルトが再び立ち上がる。
「俺が――勇者として!」
仲間たちは信じていた。
核を断てるのはアルトだと。
彼こそが勇者だと。
◇
だがその時――。
「……っ!」
コルネリアの黒光が暴発し、ミナの障壁が大きく軋む。
リュシアが押し潰されそうになり、声を失った。
「リュシア!」
アマネが駆け出していた。
思考より先に、体が動いた。
仲間を守りたい――その一心で。
抜き放った刃が、黒聖女の懐を鋭く走る。
一瞬、黒光が裂け、その奥に――赤黒い核が脈打つように輝いた。
「これが……!」
カイルが息を呑む。
「……アマネ!」
アルトが叫ぶ。
「今の一閃、どうして……!」
◇
アマネは振り返らなかった。
「みんなで……ここまで追い詰めた。
だから――もう一度!」
その瞳には迷いも恐れもなかった。
ただ仲間を守りたいという、純粋な祈りだけ。
仲間たちの胸に、同じ疑念が芽生える。
――もしかして。
「……勇者は、アマネなのか……?」
誰も声に出さなかったが、確かな直感がそこに生まれていた。
◇
「お願い……せめて、安らかに」
アマネが刃を振り下ろす。
その軌跡はまるで光そのもので、核を真っ二つに断ち切った。
黒光が大きな悲鳴を上げ、弾けるように四散する。
闇は夜空へと溶け、広場に押し寄せていた圧力が嘘のように消えた。
「……あぁ……」
リュシアが崩れ落ちるように膝をつき、涙を流した。
「終わった……のか……」
アルトが剣を下ろし、悔しさと安堵の混じった表情でアマネを見つめる。
◇
静まり返る群衆の中で――。
勇者の名が誰に相応しいのか、答えはまだ口にされない。
だが、皆の目が一人の少女を映していた。
「……アマネ……」
仲間の心に、新たな確信が芽吹いた瞬間だった。
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