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激突—救えぬ祈り、切るべき核

広場の中心、黒い聖光をまとったコルネリアが咆哮した。

その声は人間のものとは思えぬほど低く、耳を裂く。

背から伸びた黒翼が大気を震わせ、影が群衆を覆う。

「来るぞ!」

ジークが大剣を構え、地を蹴った。

巨躯の悪魔と化した彼女へ真っ向から飛び込み、重い一撃を振り下ろす。

――ギィンッ!

剣と黒光が激しく衝突。

火花が散り、地面に衝撃波が走った。

「ぐっ……! 押し負ける……だと!」

ジークの力をもってしても、黒聖女の膂力はそれを凌駕していた。

「防御を厚くするわ!」

ミナが道具を展開し、歪む空間を制御する。

「……でも、攻撃までは抑えきれない!」

「なら、俺が!」

アルトが剣を抜き放つ。

勇者の名を背負う男の刃が、黒光を切り裂こうと閃いた。

「――はああああっ!」

鋭い一撃。

人々の視線はその瞬間、すべて彼に集まった。

「勇者だ!」

「第二王子殿下が……!」

だが――。

「……切れない……!」

アルトの剣は、黒聖女の核へと届いたはずだった。

しかし黒光は吸い込むようにそれを受け止め、まるで拒絶するかのように弾き返した。

「嘘だろ……!」

彼の額に汗が浮かぶ。

「まだだ!」

ジークが支え、ミナが拘束を補強し、カイルが祈りの式を解析して叫ぶ。

「弱らせるんだ! 核を露わにしなければ……切れない!」

「なら俺が……!」

アルトが再び立ち上がる。

「俺が――勇者として!」

仲間たちは信じていた。

核を断てるのはアルトだと。

彼こそが勇者だと。

だがその時――。

「……っ!」

コルネリアの黒光が暴発し、ミナの障壁が大きく軋む。

リュシアが押し潰されそうになり、声を失った。

「リュシア!」

アマネが駆け出していた。

思考より先に、体が動いた。

仲間を守りたい――その一心で。

抜き放った刃が、黒聖女の懐を鋭く走る。

一瞬、黒光が裂け、その奥に――赤黒い核が脈打つように輝いた。

「これが……!」

カイルが息を呑む。

「……アマネ!」

アルトが叫ぶ。

「今の一閃、どうして……!」

アマネは振り返らなかった。

「みんなで……ここまで追い詰めた。

だから――もう一度!」

その瞳には迷いも恐れもなかった。

ただ仲間を守りたいという、純粋な祈りだけ。

仲間たちの胸に、同じ疑念が芽生える。

――もしかして。

「……勇者は、アマネなのか……?」

誰も声に出さなかったが、確かな直感がそこに生まれていた。

「お願い……せめて、安らかに」

アマネが刃を振り下ろす。

その軌跡はまるで光そのもので、核を真っ二つに断ち切った。

黒光が大きな悲鳴を上げ、弾けるように四散する。

闇は夜空へと溶け、広場に押し寄せていた圧力が嘘のように消えた。

「……あぁ……」

リュシアが崩れ落ちるように膝をつき、涙を流した。

「終わった……のか……」

アルトが剣を下ろし、悔しさと安堵の混じった表情でアマネを見つめる。

静まり返る群衆の中で――。

勇者の名が誰に相応しいのか、答えはまだ口にされない。

だが、皆の目が一人の少女を映していた。

「……アマネ……」

仲間の心に、新たな確信が芽吹いた瞬間だった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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