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完全なる闇—取り込まれる声

広場を覆う黒聖光は、夜空を裂く雷鳴のように荒れ狂っていた。

人々は距離を取りながらも、その場を動けずに固まっていた。

「悪魔に……取り憑かれてるのか……」

「けど、あれは……聖女候補の……」

ざわめきは恐怖と同情がないまぜになり、空気をさらに重くしていた。

「コルネリア!」

リュシアが声を張り上げた。

鎖から解き放たれたばかりの彼女は、震える足で必死に前に進む。

「あなたの願いは……聖女になりたいということだけだったのでしょう?

なら、どうしてこんな力に頼るの!」

その声に、わずかに黒い輝きが揺らいだ。

コルネリアの瞳に一瞬だけ、涙のような光が浮かぶ。

「……わたしは……選ばれたかった……」

弱々しい声がこぼれる。

アルトは剣を下ろさずに一歩進み出た。

「その願いは間違っていない。

でも――奪うことで手にした称号に意味はあるのか?」

カイルも叫ぶ。

「君の祈りは……本当に“己の声”なのか!?

それとも、教皇に与えられた鎖の声なのか!?」

だが、返答はなかった。

代わりに、黒聖光がさらに膨れ上がった。

翼が大きく広がり、礼拝堂の崩れた屋根にまで達する。

その影に覆われた瞬間、民衆の悲鳴が広場を埋め尽くした。

「う、うそだろ……!」

「天使じゃなく……悪魔の姿……!」

「だめ……!」

リュシアの声が震える。

「戻ってきて……コルネリア!」

その必死の叫びに、コルネリアの唇が小さく動いた。

「戻りたい……けど……」

――ズンッ!

地面が大きく揺れた。

黒光が彼女の全身を飲み込み、残っていた人間らしい輪郭が掻き消されていく。

白かったはずの修道服は闇に塗り潰され、祈りの言葉は不気味な呪詛へと変わった。

「足りない……まだ、足りない!

もっと……もっと力を……!」

完全に、悪魔の依代として取り込まれた。

「くっ……!」

ジークが大剣を振りかざし、咆哮に応じるように突き進む。

黒い聖光と剣圧がぶつかり合い、爆風が広場全体を揺らした。

「お前を止める! 人を傷つけさせはしねぇ!」

「止める? 奪ったお前たちに……!」

コルネリアの叫びはもはや人の声ではなかった。

「皆、離れて!」

ミナが装置を展開し、黒光を偏向させる。

「これ以上は……本当に完全に悪魔になる!」

カイルが歯を食いしばり、震える声で告げる。

「もう……取り込まれてしまった……。

救える道は一つしかない……」

「一つ?」

アマネが振り返る。

カイルは苦悩に満ちた瞳で答えた。

「……核を断ち切ること。それしか……」

アマネの胸が締め付けられた。

(彼女も……本当はただ、聖女になりたかっただけなのに……!)

唇を噛みしめ、剣を構える。

黒い聖光の中で、コルネリアの面影はもはや消えかけていた。

「……だったら、せめて……」

アマネは小さく呟く。

「せめて、苦しみからは解放する」

彼女の瞳に迷いはなかった。

夜の広場、勇者の影がひときわ強く光を帯びる。

――黒聖女との本格的な戦いが、今、始まろうとしていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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