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鎖に囚われた祈り

修道院の奥、礼拝堂の扉を蹴破ると、冷たい光が一行を迎えた。

高い天井から差すはずの聖光は黒ずみ、色を失ったステンドグラスが怪しく揺らめいている。

そして――祭壇の中央。

そこに立たされていたのは、鎖に囚われたリュシアだった。

両腕を広げられるように固定され、足首まで黒紫の光に絡め取られている。

実体を持つ鎖に見えるが、その表面には魔術式が刻まれ、絶えず禍々しい魔力が脈動していた。

リュシアの唇は淡々と動く。

「……主よ、わが身を……器として……」

形式通りの祈りが紡がれる。だが、その瞳には光がなかった。

「リュシア!」

最初に駆け寄ったのはアマネだった。祭壇に駆け上がり、刀を抜き放つ。

だが彼女が力いっぱい振り下ろした刃は、鎖を切断するやいなや、じゅっと音を立てて再び繋がった。

「再生する!?」

続いてジークが大剣を構える。

「なら、叩き割るまでだ!」

筋肉が膨れ上がるほどの一撃――。

金属音が轟き、火花が散った。

しかし鎖はびくともせず、逆にジークが弾かれ、膝をつく。

「くそっ……硬ぇ……!」

アルトが慎重に手をかざし、魔力を流し込もうとする。

だが、まるで逆流するかのように光が弾け、彼の手が弾き飛ばされた。

「……ただの封印じゃない。強制祈祷の術式だ。外から力を加えれば、リュシア自身が傷つく」

短い静寂。

カイルが一歩前へ出た。

「僕に見せてくれ」

彼は鎖に掌を当て、目を細める。

刻まれた紋様が脈打つように浮かび上がり、その流れを追うように指が動く。

「……精神に干渉する呪縛だ。祈りを強制し、自分の声を奪う術式。無理に斬れば、リュシアの心そのものを断ち切る」

「じゃあ……どうすれば!」アマネが焦燥を隠せず叫ぶ。

その背中に、ミナが一歩踏み出した。

「待って。これなら使えるかも」

彼女が取り出したのは、腰に下げていた小型の魔力干渉装置。

球体のコアが淡く青く光り、内部で歯車が忙しなく回っている。

「これ、まだ試作品だけど……式を乱せば、一時的に鎖の力を緩められるはず」

カイルは頷いた。

「同期させよう。僕が式を解読して導く。ミナ、装置の出力を合わせて」

「了解!」

二人は息を合わせ、鎖へと干渉を始めた。

複雑な紋様が青白く揺らぎ、鎖全体にひびのような光が走る。

「今だ、アマネ!」

「……うんっ!」

アマネが再び刀を振り下ろす。

今度は――鎖が砕け散った。

リュシアの体が力なく崩れ落ちる。

アマネが慌てて受け止め、その体を抱きしめる。

「リュシア!」

虚ろだった瞳に、ようやく涙が滲んだ。

彼女の唇が小さく震える。

「……皆……来て、くれたのですね」

「当たり前だ!」ジークが拳を握り叫ぶ。

「君の声を取り戻すために来たんだ」カイルが静かに言葉を添える。

リュシアの頬を伝う涙。

「……私、もう……一人じゃない……」

その言葉に、仲間たちの胸が熱くなる。

その瞬間――。

大地が震え、礼拝堂全体を黒い光が包み込んだ。

祭壇の奥、影のように立っていた修道女の影が、ずるりと形を変えてゆく。

銀髪のセミロング。

灰色の瞳に、渦巻く憎悪と渇望。

――コルネリア。

「……また、あなたが……聖女として選ばれるのですか。……許せない」

彼女の口から漏れる声は低く歪み、黒い聖光が迸った。

空気が張り裂けるように震え、祭壇の上に闇が立ち昇る。

仲間たちの背に冷たい戦慄が走る。

リュシア救出の喜びは、一瞬で消え去った。

新たな戦いの幕が、いま切って落とされようとしていた――。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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