揺らぐ鐘—集まる視線
修道院の夜。
深い闇を切り裂くように、鐘が鳴り響いた。
しかしその音は、いつもの清らかな響きではない。
鉄が軋み、石を削るような、不吉な振動だった。
「……なんだ?」
下町の宿屋から顔を出した男が眉をひそめる。
巡礼のために泊まっていた人々も、戸口を開けて夜空を仰ぐ。
黒い光が、修道院の窓から漏れていた。
「あれは……聖なる光、なのか?」
「いや、違う……禍々しい……」
ざわめきが広がり、人々は広場へと集まっていく。
恐怖と好奇心が入り混じり、ざわめきは次第に渦となった。
◇
「儀式の予定など、今夜は無いはず……」
修道院前に駆けつけた審問官たちも、顔を青ざめさせる。
だが、職務に縛られた彼らは即断できない。
「内部に踏み込めば、我らの越権行為だ……だが、このままでは……」
板挟みの沈黙が重く落ちた。
◇
その時、石畳を駆ける足音が近づいた。
「間に合った……!」カイルが息を切らせて現れる。
その背後にはジーク、ミナ、アルト、そしてアマネ。
皆の瞳が同じ一点――黒い光に包まれた礼拝堂へと向いていた。
「中に、リュシアが……!」
カイルの声が震え、仲間の胸を打つ。
ジークが拳を握りしめた。
「チッ、やっぱり教会の連中は何か隠してやがったな!」
ミナは肩を震わせながらも、必死に笑みを作った。
「……行こう。あの子を、置いてなんていけない」
アルトは静かに剣の柄へ手をかけ、アマネは強く頷いた。
「必ず、助ける」
短い言葉だったが、その声に迷いはなかった。
◇
広場に集まった民衆は、彼らを目にしてざわめきを増す。
「勇者候補たちだ……!」
「聖女候補を救いに?」
「なら、あの黒い光は……!」
修道女たちが慌てて制止するも、黒い聖光が窓を突き破り、花弁のように夜空へ散った。
ざわめきは悲鳴に変わり、群衆が後ずさる。
軋む音を立てて、礼拝堂の扉が震える。
中から、低く、狂気を帯びた声が漏れた。
「……私は、聖女に……なる……!」
仲間たちは互いに顔を見合わせた。
その声の主を、彼らは知っている。
「……コルネリア!」
アマネが刀に手を添え、静かに呟いた。
闇を裂く戦いの幕が、いま開こうとしていた。