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揺らぐ鐘—集まる視線

修道院の夜。

深い闇を切り裂くように、鐘が鳴り響いた。

しかしその音は、いつもの清らかな響きではない。

鉄が軋み、石を削るような、不吉な振動だった。

「……なんだ?」

下町の宿屋から顔を出した男が眉をひそめる。

巡礼のために泊まっていた人々も、戸口を開けて夜空を仰ぐ。

黒い光が、修道院の窓から漏れていた。

「あれは……聖なる光、なのか?」

「いや、違う……禍々しい……」

ざわめきが広がり、人々は広場へと集まっていく。

恐怖と好奇心が入り混じり、ざわめきは次第に渦となった。

「儀式の予定など、今夜は無いはず……」

修道院前に駆けつけた審問官たちも、顔を青ざめさせる。

だが、職務に縛られた彼らは即断できない。

「内部に踏み込めば、我らの越権行為だ……だが、このままでは……」

板挟みの沈黙が重く落ちた。

その時、石畳を駆ける足音が近づいた。

「間に合った……!」カイルが息を切らせて現れる。

その背後にはジーク、ミナ、アルト、そしてアマネ。

皆の瞳が同じ一点――黒い光に包まれた礼拝堂へと向いていた。

「中に、リュシアが……!」

カイルの声が震え、仲間の胸を打つ。

ジークが拳を握りしめた。

「チッ、やっぱり教会の連中は何か隠してやがったな!」

ミナは肩を震わせながらも、必死に笑みを作った。

「……行こう。あの子を、置いてなんていけない」

アルトは静かに剣の柄へ手をかけ、アマネは強く頷いた。

「必ず、助ける」

短い言葉だったが、その声に迷いはなかった。

広場に集まった民衆は、彼らを目にしてざわめきを増す。

「勇者候補たちだ……!」

「聖女候補を救いに?」

「なら、あの黒い光は……!」

修道女たちが慌てて制止するも、黒い聖光が窓を突き破り、花弁のように夜空へ散った。

ざわめきは悲鳴に変わり、群衆が後ずさる。

軋む音を立てて、礼拝堂の扉が震える。

中から、低く、狂気を帯びた声が漏れた。

「……私は、聖女に……なる……!」

仲間たちは互いに顔を見合わせた。

その声の主を、彼らは知っている。

「……コルネリア!」

アマネが刀に手を添え、静かに呟いた。

闇を裂く戦いの幕が、いま開こうとしていた。


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