余韻の灯—静かな二人
舞踏会の喧騒がひと段落し、煌びやかな灯りが少しずつ落ち着いていく。
ジークとミナは堂々と手を取り合い、笑顔を交わしながら人々の視線を浴びていた。
アマネとアルトもぎこちなくも軽やかなステップを踏み、互いに照れ笑いを浮かべている。
その賑わいの少し外れた場所。
壁際の椅子に腰掛けたカイルは、仲間たちの姿を目に焼きつけながら、胸の奥で小さな悔しさを覚えていた。
(……結局、僕は踊らなかった)
だが不思議と、その時間は苦痛ではなく、むしろ心地よかった。皆の成長と笑顔を見守れたからだ。
ふと隣に視線を向けると、リュシアが静かに座っていた。
彼女もまた舞台を見つめている。頬には柔らかな光が差し、以前にはなかった自然な表情が浮かんでいた。
「……皆が、輝いていました」
ぽつりと落ちた言葉は、舞踏会の余韻に溶け込むようだった。
「私も……いつか、あんなふうに笑えるのでしょうか」
カイルは少し驚いたあと、微笑んで返した。
「リュシアは十分、輝いていたと思うけど」
「……そう、見えましたか?」
わずかに赤みを帯びた頬。恥ずかしそうに目を伏せる姿に、カイルの胸が高鳴る。
そのとき、彼女の指先が震えてグラスを揺らした。
思わず手を伸ばし、彼はその手を支える。ほんの一瞬、互いの指が重なった。
リュシアの瞳が大きく揺れ、頬がさらに赤く染まる。
「……っ」
彼女は慌てて目を逸らし、カイルも同じように手を引っ込めた。
けれど、その短い触れ合いの感触は、胸の奥に強く残った。
遠くからジークとミナの笑い声、アマネとアルトの照れた会話が聞こえる。
だが、この端の片隅には、二人だけの静かな余韻があった。
(……もう少し、この距離にいたい)
(……もう少し、触れていたい)
言葉にはならない思いが、互いの胸に芽生えたまま、夜はゆっくりと更けていった。
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