教師たちの囁き—恋と勇気の一歩
舞踏会も後半。
シャンデリアの光は少し落とされ、会場はしっとりとした雰囲気に包まれていた。
舞台袖で見守る教師たちの姿がある。
赤髪を揺らすイレーネが、挑発的に笑った。
「まったく……あの王子様、もどかしいわねぇ」
「イレーネ先生」
保健医セラフィーナが苦笑しながらも頷く。
「でも、今の一歩が未来を変えるのは確かです。無理をしなくても、歩き出すだけで」
銀灰の髪を撫でつけるカミルは、真剣な横顔で言葉を添える。
「勇者であろうとなかろうと……彼には、あの子の隣に立つ権利がある」
三人の視線の先には――踊らずに立ち尽くすアルトとアマネの姿。
◇
「……アルト君」
不意に耳元で囁かれた声に振り返ると、そこにイレーネが立っていた。
「好きなら行きなさいな。舞踏会はね、告白よりずっと正直なものよ」
挑発的な笑みとともに、背中を軽く押される。
「えっ……」
頬を赤く染めたアルトは、一瞬迷ったが――深呼吸をして、足を踏み出した。
◇
「アマネ……」
「えっ、アルト?」
差し出された手に、アマネはきょとんとしながらも、小さく笑ってその手を取った。
二人が中央に出ると、会場のざわめきが静まる。
音楽が流れる。
アルトは少しぎこちなくも、丁寧にアマネをリードした。
アマネはその不器用さに思わず微笑み、楽しげに踊り始める。
「アルトって……真剣なんだね」
「当たり前だろ……。君と踊ってるんだから」
その言葉に、アマネの頬がほんのり赤く染まった。
本人はまだ恋だと気づいていない。けれど――アルトの胸には確かに熱が宿っていた。
(勇者でなくても……俺は、君の隣を歩きたい)
◇
音楽が終わると同時に、二人の姿は温かな拍手に包まれた。
勇者候補と少女ではなく、一人の少年と少女として。
そこにあったのは、立場を超えた純粋な青春のきらめきだった。
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