舞踏会の幕開け—光と変化
学院大講堂。
天井から吊るされたシャンデリアが宝石のように輝き、楽団の奏でる優雅な調べが広間を満たしていた。
一年前と同じ舞踏会。しかしその空気は、去年のぎこちない初舞台とは明らかに違っていた。
「すごい……去年よりずっと華やかに見えるね」
アマネが小さく息を呑む。緊張よりも、自然に場へ溶け込むような存在感をまとっている。
アルトは横目で彼女を見ながら、心の奥で強く思った。
(勇者の肩書きなんて関係ない……。俺が守りたいのは、この隣の彼女だ)
◇
先陣を切ったのは、ジークとミナだった。
堂々と腕を取り合い、音楽に合わせて舞う二人。
「おお、あの二人……やっぱり付き合ってるんだって」
「騎士科のエースと、商科の才女……!」
周囲がざわめき、視線が集まる。だが二人はそれを気にせず、楽しげに笑っていた。
ジークの力強いリードと、ミナの軽やかなステップ。互いを信じ切った舞は、誰もが羨む輝きを放っていた。
◇
その様子を見守るリュシアは、自然な笑顔を浮かべていた。
「……素敵です」
かつて「笑ってはいけない」と抑え込まれた彼女が、今は当たり前のように仲間と笑い合っている。
隣のカイルは一歩引き、冷静に会場を見渡していた。
(去年なら分析ばかりしていた。でも今は……ただ、皆の笑顔を見ていたい)
感情を抑えるのではなく、受け入れ始めた自分に気づき、少しだけ口元が緩んだ。
◇
「アルト、行ってみたら?」
ミナが休憩中に軽く肘でつつく。
「えっ……いや……」
言い淀むアルト。隣のアマネも首を傾げる。
「私? え、でも……」
お互いに視線を逸らし、ぎこちなく笑う。
その様子に、周囲の仲間たちが「まだまだだな」と微笑ましく目を細めていた。
華やかな音楽の中、舞踏会は更なる盛り上がりを見せていく。
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