教師たちの視線—青春を見守る者たち
夕暮れ、学園の教師控室。
窓の外では、生徒たちが学園祭前日の準備に駆け回り、あちこちで笑い声が弾んでいる。
机の上には紅茶と、なぜかワインの小瓶まで置かれていた。
「ふふ、いいわねぇ。青春ってやつ」
ワイングラスを揺らしながら、魔導学助教イレーネ・フォン・ローザリアがにやりと笑う。
燃えるような赤髪をかき上げ、その眼差しはまるで獲物を探す猫のように艶やかだった。
「今日だって見たのよ。ジークとミナ、もうすっかり恋人の顔だったわ。
舞踏会じゃ、きっと人前で堂々と踊っちゃうんじゃない?」
「助教が、そういう話を軽々しく……」
カミル・オルフェは頬を赤らめ、困ったように紅茶のカップを持ち直す。
銀灰色の短髪がさらりと揺れ、中性的な横顔は、女性ながらも少年のように見える。
しかしその瞳は生真面目で、どこか生徒たちを思いやる色を宿していた。
「でも……彼らの真っ直ぐさは見ていて清々しいです。
ただ――アルト殿下とアマネさんは……難しいですね」
「勇者の肩書き、ね」
セラフィーナ・ノエルが静かに紅茶を置く。
知的な金の瞳が窓の外の人影を追いながら、小さくため息を漏らした。
「立場と気持ち。その狭間で揺れるのは、心にとって負担になるわ。
でも、恋愛もまた“健康”の一部。……乗り越えられるなら、彼らを強くするでしょう」
「ほぉら出た、保健医の専門的なお説教」
イレーネが肘をつきながら、にやりと笑う。
「でも実際そうよね。立場や役割ばっかり気にしてたら、恋なんてできやしないもの」
「奔放すぎますよ、イレーネ助教は」
カミルが眉をひそめるが、その声色は否定よりも、呆れに近かった。
セラフィーナがそんな二人を横目に、ふっと微笑む。
「でも、あの子たちなら大丈夫。互いに見て、悩んで、きっと選ぶわ。
――それが、どんな答えでもね」
イレーネはワイングラスを空けてから、挑発的な笑みを浮かべる。
「さて、明日の舞踏会。私たちはただの観客じゃつまらないわよね」
「……舞台に出るわけじゃないでしょう」
カミルが苦笑する。
「でも、見守るだけじゃなくて、時には背中を押すのも教師の役目よ」
セラフィーナの言葉に、二人は視線を交わし、静かに頷いた。
窓の外では、生徒たちの笑い声が絶えない。
その響きに耳を傾けながら、三人の教師はそれぞれに思った。
――明日の舞踏会、きっと何かが変わる。
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